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nano tech 2016(1月27〜29日)


nano tech 2016 マイクロ流体型の有機ELが登場
新たな有機半導体材料や高導電性CNT透明電極にも脚光が

 1月27〜29日、東京ビッグサイトで開かれた「nano tech 2016 第15回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」。独断と偏見でおもなトピックスをレポートする。

 まずデバイス関連では、九州大学と早稲田大学の研究グループがマイクロ流体有機ELと名づけた新たな有機ELデバイスを紹介した。ガラス基板上にフォトリソで作製した数十μm幅の流路(フォトレジスト製)に液体状の有機発光材料を流し込んでEL発光させるデバイスで、液体発光材料にはピレン誘導体であるPLQ(日産化学製)を使用。本来青色発光するPLQを青色発光に、ルブレンをドープしたPLQを黄色発光に利用し、これら溶剤レスの液体をストライプ状に形成した流路に充填した。まずは青色、黄色それぞれの単色発光を確認。これらを交互にストライプ状に集積したデバイスでは2色の加法混色による白色発光が得られた。


写真1 液体有機発光材料を再注入した際の発光変化(九大、早大)

 最大の特徴は駆動時間の経過とともに発光輝度が低下した場合、液体発光材料を再注入すると発光輝度がイニシャルに戻ること。写真1は液体発光材料を再注入した際の発光の様子で、時間の経過とともに発光が回復することがわかる。つまり、インクジェットプリンターのようにインク(発光材料)を入れ替えれば、デバイスを半永久的に使用できることになる。

 気になる外部量子効率は流路のエッジから光漏れが多いこともあり、1%以下とかなり低い。ただ、この数字はキャリアトランスポートレスの初期デバイスの値で、通常の有機ELデバイスのようにキャリアトランスポートレイヤーをインサートしキャリアバランスを改善するとともに、既存の光取り出し改善技術を併用すれば大幅な改善が見込める。


写真2 フレキシブル電子ペーパー(Plastic Logic)

 ちなみに、有力アプリケーションはフレキシブル有機EL照明デバイスとのこと。確かに液体発光デバイスだけにフレキブル化には有利だが、すでにコンベンショナルなソリッドデバイスでもフレキシブル化が実用化されていることを考えると、そのアピールポイントはさほど強くないように感じた。

Plastic Logicが有機TFT駆動フレキシブル電子ペーパーを披露

 一方、欧州の有機デバイス開発プロジェクトであるOrganic Electroncis Saxony(Oes)のブースでは英Plastic Logicが有機TFT駆動のフレキシブルマイクロカプセル型電気泳動ディスプレイを披露した。プラスチックフィルムをサブストレートにした世界初のフレキシブル電子ペーパーで、すでに量産準備が整っているという。

特定の溶媒にしか溶解しない有機半導体でトップコンタクト有機TFTを
 

型番
ホール移動度
トルエン溶解度
相転移温度
その他
FSC-V01
13cm2/V・s
1.4wt%
>180℃
スピンコート可能
FSC-V02
3cm2/V・s
0.5wt%
>250℃
5V駆動可能

表1 有機半導体材料の特性(富士フイルム)

  材料メーカーでは、富士フイルムが独自の有機半導体材料を使用したフレキシブル有機半導体デバイスをアピールした。塗布型有機半導体の組成はシークレットだったが、特定の有機溶剤にしか溶解しないのが特徴。つまり、有機半導体層の上層をパターニングする際、この有機溶剤さえ使用しなければ安価なウェットエッチング法が適用できる。実際、試作したデバイスは有機半導体層を形成した後にソース/ドレイン電極を形成するボトムゲート/トップコンタクト型で、ソース/ドレインパターニング後も有機半導体がダメージを受けることはないという。表1は開発した有機半導体材料の種類と特性を示したもので、ブレードコート法による多結晶膜成膜法を用いることにより3〜13cm2/V・sと有機半導体としては高いキャリアモビリティが得られる。ブースではプラスチックフィルム上に作製した有機トランジスタアレイを展示。同社はこの有機半導体材料を供給する方向だという。

ポストアクリルポリマーを透明絶縁膜用途に


写真3 透明ポリマー塗布サンプル(日立化成)

 一方、日立化成はコンベンショナルなアクリルポリマーをリプレースする新たな耐熱透明ポリマーを披露した。組成は明らかにしていないが、300℃クラスの熱処理でも黄変せず90%以上という可視光透過率が維持できるのが特徴。ブースではこのポリマーをフィルム化した耐熱透明フィルムも展示したが、このフィルムサブストートの熱膨張係数は60〜70ppm/℃と一般的な値。このため、サブストレート用途というよりはワニス状で供給する透明絶縁膜用途がファーストターゲットになりそうだ。

ITOをしのぐ高導電性CNT透明電極が出現

 近年、ポストITOとして提案が活発化しているフレキシブルデバイス用透明電極では産業技術総合研究所(産総研)が新たなCNT(カーボンナノチューブ)透明電極をアピールした。バルクSW(シングルウォール)CNTと無機ナノ粒子を混合した懸濁液を塗布した後、Xeフラッシュランプを用いて短パルス光焼成処理したもので、室温・大気中プロセスで導電性の高い透明導電膜が得られる。ユニークなのはそのメカニズムで、短パルス光焼成によってバインダがバーンアウトするとともに、前処理として追加していたハロゲン化合物が拡散してSWCNT内に浸透する。つまり、ドーピングに近い効果が得られる。この際、バルクCNTに含有されている半導体性SWNTが導電性CNTに変質する。つまり、ほぼピュアな導電性CNT膜が得られる。この結果、可視光透過率85%時で60〜70Ω/□とITOよりも高い導電性が実現する。

 ちなみに、CNT膜は総じてウェットエッチングが難しいため、透明電極としてパターニングする際はスクリーン印刷などのダイレクト印刷法、またはレーザードライエッチング法を用いる必要がある。

ALDライクなガスバリア膜成膜装置が登場


図1 透過He分圧の比較(フィルテック)

 製造装置関連では、筑波大学のブースでベンチャー企業「フィルテック」がユニークな有機ELデバイス用Al2O3ガスバリア膜成膜装置を紹介した。TMA(トリメチルアルミニウム)とH2Oを原料ガスに用いそれぞれのガスを交互に切り替えながら供給してグラデーションAl2O3膜を成膜するCVD装置だが、いわゆるALD(Atomic Layer Deposition)装置ではない。最大の特徴は室温成膜が可能なことで、膜厚100nmを成膜するのに要する時間は50分程度。このため、量産装置では複数のサブストレートを一括処理するバッチ処理を採用する予定。図1はPETフィルム、ガラス、Al2O3膜付きPETフィルムのHeガス透過性を比較したもので、ベアガラスと同等のガスバリア性が得られる。いうまでもなくHeガスの透過性は水蒸気や酸素よりも高いため、フレキシブル有機ELデバイスのガスバリア膜として十分だという。

 

 

 


REMARK
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