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技研公開2012(5月24日〜27日)


技研公開2012 145型スーパーハイビジョンPDPが圧倒的な存在感を
低温プロセスで作製したa-IGZO-TFTで高分子燐光有機ELをドライブ

 5月24〜27日、NHK放送技術研究所(東京都世田谷区)で開かれた「技研公開2012」。目玉は昨年に引き続きスーパーハイビジョン対応FPDで、昨年の85型a-Si TFT-LCDに代わって145型PDPを披露。その圧倒的なスケールに魅了されたというのが正直な感想だった。ポスター展示を含めトピックスをレポートする。


写真1 145型スーパーハイビジョンPDP

 冒頭のように、目玉の145型スーパーハイビジョンPDP(7680×4320画素)はNHK技研とパナソニックが共同開発したもので、画素ピッチは0.417o。さすがにスーパーハイビジョンだけに50cm先でも画素はまったく認識できない。超高精細化で問題となる駆動方法については、マルチライン同時走査法と名づけた駆動法を導入。詳細は明らかにしなかったが、フィールドを構成するサブフィールドのうち輝度に画面影響を与えにくいいくつかのサブフィールド部分を2ライン同時走査することにより、スーパーハイビジョン解像度でも十分な走査時間を確保し安定動作を実現した。つまり、厳密にいうとすべてのサブフィールドをプログレッシブ処理しているわけではなく、サブフィールドによっては垂直方向の解像度が犠牲になるが、それは人間の目では判別できないようアルゴリズムを工夫しているという。ただ、サイズと解像度以外のスペックは開示せず、見た目には輝度が若干不足しているように感じた。とはいえ、このサイズ、このレゾリューションだけに存在感は抜群で、昨年披露した85型a-Si TFT-LCDよりもインパクトは高かったように感じた。

 一方、ポスター展示では新たなPDP用保護膜としてCaMgOを提案。コンベンショナルなMgOにCaOをドープしたもので、リファレンスであるMgOに比べγ特性が向上し発光効率がアップする。ただし、従来から提案しているSrCaOと同様、保護膜成膜後に大気中でパネルを封着処理すると保護膜表面に炭酸化膜ができ、CaCO3となって結果的に発光開始電圧・発光維持電圧とも上昇してしまう。このため、CaMgO保護膜表面に析出するCaCO3膜の影響をミニマム化するため、CaOドープ量と駆動電圧の関係を調べた。つまり、電子ビーム蒸着する混合ペレットにおけるMgOとCaOの混合比を変えてパネル特性を比較評価した。その結果、CaOのドープ量を25〜40wt%にすると、コンベンショナルな大気中封着処理でも発光開始電圧が従来の300Vから150V程度と劇的に低下することがわかった。これはNe-Xe(10%)ガスを封入した場合の特性で、高効率化のためにXe分圧をさらに高めればさらなる電圧低下が見込めるという。ただ、これらの結果は封着〜ガス封入〜封止後、長時間にわたるエージング処理を行った際の話で、保護膜表層にできたCaCO3膜を除去するには通常よりも長時間エージング処理を行う必要があるとのこと。

ポリマー絶縁膜にはトップゲート型が有利

 NHKにとってスーパーハイビジョンテレビと並ぶ次世代テレビと位置づけるフレキシブルディスプレイに関しては、ポスター展示でアモルファスIGZO(In-Ga-Zn-O)酸化物TFT駆動のフレキシブル有機ELディスプレイを発表した。


写真2 PENフィルム上に作製したIGZO-TFT

 ゲート絶縁膜材料にオレフィン系ポリマーを用いてウェットコートし130℃で低温硬化させるとともに、IGZO酸化物半導体を室温でスパッタリング成膜し、さらにアニール温度を130℃に抑制。サブストレートにPENフィルムを使用できるようにした。デバイス構造を最適化するため、ボトムゲート型とトップゲート型を作製し特性を比較したところ、後者は前者に比べ大幅に特性が高いことが判明した。これは、ゲート絶縁膜上にIGZO酸化物半導体膜をスパッタリング成膜するボトムゲート型ではポリマーゲート絶縁膜がスパッタリングダメージによって膜が変質するとともに、ポリマーゲート絶縁膜中に拡散された正のメタルイオンによってIGZO膜中に過剰な電子が誘起されるため。これに対し、酸化物半導体層とソース/ドレインを形成した後にポリマーゲート絶縁膜を形成するトップゲート型ではこうした問題がないため。そのキャリアモビリティはチャネル長30μm、チャネル幅80μmで3.6cm2/V・sだった。
 
  なお、130℃という低温アニールではVthシフトをはじめ動作安定性に疑問が残るが、これについて説明員は「まだバイアスストレステストなどは行っておらず初期特性を評価した段階。実用性を考えれば、もう少しアニール温度を上げる必要があるだろう」とのことだった。

 上記の結果を踏まえ、8型VGAのトップゲート型IGZO-TFTを試作。上部に高分子燐光有機EL素子を作製しアクティブマトリクス駆動有機ELDをドライブすることに成功した。トランジスタ回路はドライビングTFT、スイッチングTFT、ストレージキャパシタの2T1C構成で、開口率は20%弱。高分子発光材料はIr系燐光色素を高分子ホストにドープし、インクジェットプリンティング法によってダイレクトパターニングした。また、接着剤を介してプラスチックフィルムで固体封止することにより、厚さを0.3oに薄くするとともにフレキシブル化した。ポスター展示された試作パネルは欠陥がかなり目についたが、曲げても表示自体は劣化しないという。

大気中でも安定動作するN型有機TFTを作製

 IGZO酸化物TFTと並びフレキシブルディスプレイ用TFTの有力候補である有機TFTに関しては今回ディスプレイではなく、N型とP型の有機TFTを集積化したCMOSインバーター回路を発表した。

 研究の狙いは大気中でも安定なN型有機TFTを開発することで、大気中でも酸化されにくく、イオン化ポテンシャルが5.05eVとAuソース/ドレインの仕事関数(5.1eV)に近いベンゾビスチアジアゾール誘導体をN型有機半導体に使用。これを真空蒸着法で成膜してコンベンショナルなボトムコンタクト型デバイスを作製した。チャネル長は5μmである。そのモビリティは0.1cm2/V・s、ON/OFF電流レシオは108クラス、Sファクターは0.4V/decとN型としては良好な特性を示した。そこで、p型有機半導体材料であるペンタセンを真空蒸着したp型TFTと組み合わせたCMOSインバータ回路を試作。PENフィルムによってフレキシブル化することに成功した。


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。