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PV JAPAN 2009(6月24〜26日)



写真1 フレキシブル太陽電池

PV JAPAN 2009 有機太陽電池に寿命改善の兆しが
インフラはICP-CVD装置とプリンティングテクノロジーに脚光

 6月24〜26日、幕張メッセで開かれた「PV JAPAN 2009」。展示会場自体は幕張メッセの4〜6ホールと決して大きくなかったが、昨今の太陽電池ブームを反映し、会場は予想を上回る混雑ぶりを呈していた。ここでは、次世代太陽電池である有機太陽電池を中心にレポートする。

 今回のPV JAPANを総括すると、シリコン系ではエネルギー変換効率競争とデザイン競争、薄膜シリコン系では大型化競争がメインテーマだったように感じた。前者については三菱電機が18.9%、三洋電機が23%という高効率を誇示。また、シャープやカネカは背面が透けて見えるシースルータイプも展示しアイキャッチ効果を高めていた。後者に関してはシャープやカネカ、さらに米Applied Materialsやアルバックといったターンキー装置メーカーが1mを越える超大型薄膜太陽電池を展示。やはりコストパフォーマンスならシリコン系よりも優位というイメージを印象づけた。また、CIGS(Cu-In-Ga-Se)をはじめとする化合物系や薄膜シリコン系ではプラスチックフィルムを用いたフレキシブル太陽電池の出展が相次ぐなど、新たな用途を開拓しようという動きが目立っていた。ただ、総じて技術的な説明は少なく、テクノロジー関係のエキジビションというよりも住宅用途をはじめとするコンシューマー向けのエキビジションの性格が強いように感じた。これは、今年度から住宅への太陽電池システム導入に対する補助金制度が復活したことが大きいようだ。

 以下ではStella通信の独断と偏見で次世代太陽電池、とくに有機太陽電池のトピックスを中心にピックアップする。


写真2 フレキシブル色素増感太陽電池(東大 荒川研究室)

プレス法により常温でTiO2膜を膜状に

 ウェットプロセスが多用でき安価でカラフルなデバイスが実現する色素増感太陽電池では、東京理科大学 荒川研究室がトピックスを演出した。

 コンベンショナルなグレッツェルセル型では透明電極上にナノサイズTiO2ペーストを塗布し、焼成した後、ポーラス化してRu錯体色素を吸着させるが、一般的にTiO2膜は400〜600℃で高温焼成する必要がある。色素増感太陽電池が狙っているアプリケーションのひとつであるモバイル用途ではサブストレートに薄くて軽いプラスチックフィルムを用いるのが望ましいが、その耐熱性が採用のネックになっている。そこで、同研究室ではPENフィルムにTiO2ペーストを塗布した後、物理的にプレスすることにした。圧力は160MPa程度で、常温環境でも1分程度でTiO2膜がPENフィルムに密着しフィルム化するという。つまり、プレスによってグレインとグレインを融着する。気になる変換効率は7.6%をマーク。これはTiO2ペーストを高温焼成したガラス製デバイスに比べ若干劣るものの、プラスチック製デバイスでは世界最高に当たり、ポーラスTiO2膜自体は高温焼成膜とほぼ同じ特性が出ているとみている。

電解液にイオン液体を用いて耐久性を改善

 一方、産業技術総合研究所(産総研)は色素増感太陽電池の最大のウィークポイントである寿命(=耐久性)について新たな成果を示した。一般的な色素増感太陽電池は電解液にアセトニトリルなどの低沸点溶媒を用いるため電極の腐食による寿命低下


図2 イオン液体を用いた色素増感太陽電池のライフ

図1 使用したイオン液体(産総研)

が懸念されているため、図1のイオン液体を電解液に使用。さらに、高価で資源的枯渇も懸念されるRu系色素に代わって、MK-2やMK-14といった有機色素を使用。MK-2デバイスでは変換効率7.6%と比較的高い値を実現。しかし、特筆されるのはその耐久性で、図2のように100mW/cm2を照射しても2000時間以上経過しても変換効率はほとんど変化しなかった。このテストは2200時間で打ち切ったが、このまま続けても1万時間クラスまでは変換効率がほとんど低下しないとみられる。ちなみに、アセトニトリルを電解液に用いた場合、数百時間で効率は4%以下に低下するという。

電極、有機層をレーザーでスクライブして有機薄膜太陽電池を大型化

 オーガニックソーラーで色素増感太陽電池と競合関係にある有機薄膜太陽電池では、産総研がWhat's NEWを提供した。有機薄膜太陽電池は数o角サイズという小型ならアノード、有機層、カソードともベタでいいが、大型化するとアノードの抵抗が大きすぎて発熱による電気エネルギーロスがあるため、極端に変換効率が低下する。このため、従来は低分子有機ELディスプレイで用いられるメタルマスクスルー蒸着法によってパターニングしていたが、この方式では両電極と有機層のアライメントが難しいため、レーザーで短冊状にカットすることにした。


写真3 有機薄膜太陽電池と発電した電力で動作する風車(産総研)

 試作したのはITOアノード/p型半導体層(CuPc)/n型半導体層(C60)/Alカソードというもっともシンプルなpn接合低分子素子で、フェムト秒レーザーを照射してITO膜、有機半導体層、Al膜をスクライブ加工した。スクライブ幅は数十μmで、ピッチは10o。薄膜シリコン太陽電池と同様、それぞれのレイヤーを数十μmずつずらしてスクライブ加工した。この結果、デバイスサイズを200×200oに大型化しても変換効率が低下しなかった。なお、今回は同一のフェムト秒レーザーを用いたが、この方式では下地へのダメージが懸念されプロセスウィンドウが非常に狭くなることから、今後はそれぞれのレイヤーに応じたレーザーを用いていく方向だ。

 ところで、有機薄膜太陽電池も寿命が問題視されているが、有機ELデバイスと同様、乾燥剤を設けたガラスキャップとエポキシ系UV硬化型シール材で封止すれば最低限の寿命、つまり1年程度の寿命は確保できる可能性が高いとのこと。

マイクロクリスタルSiを200℃以下でCVD成膜

 製造インフラ関連では、真空成膜装置ベンチャーのセルバックがインパクトのあるデモを敢行した。高密度プラズマが生成可能なICP(Inductively Coupled Plasma)CVD装置をピーアールしたもので、タンデム型薄膜太陽電池に必須とされるマイクロクリスタルシリコン(μC-Si)をダイレクト成膜したポリイミド(PI)フィルムとガラス基板(370×470o)を展示。膜厚は100nmで、サブミクロンクラスのグレインが得られる。最大の特徴は200℃以下で低温成膜できることで、成膜レートも50〜100nm/minと比較的速い。また、タンデム型でμC-Siと組み合わせるa-Si膜を常温でICP-CVD成膜したPETフィルムも展示。装置はガラス基板などのシートタイプは400×500o、フィルム向けのRoll to Roll対応タイプは幅500oに対応可能となっている。


写真4 PIフィルム上に成膜した微結晶シリコン

写真5 ガラス基板上に成膜した微結晶シリコン

写真6 PETフィルム上に成膜したa-Si(セルバック)

 ICP-CVD法は太陽電池以外にも有望で、なかでも有機ELデバイスや電子ペーパーなどの薄膜封止・ガスバリア向けとしてもピーアール。SiON膜を膜厚200nmで成膜した場合、5×10-6g/m2/day(40℃、90%RH)と高い水蒸気バリア性が得られる。実際にユーザーが作製した緑色有機EL素子をSiON膜で薄膜封止してライフを評価したところ、60℃、90%RH環境でも1000時間以上経過してもダークスポットが検出されなかったという。


写真7 スクリーンマスクとシリコン太陽電池(ムラカミ)

スクリーン印刷でフィンガー電極を形成

 シリコン太陽電池のフィンガー電極形成法として事実上のデファクトスタンダードになっているスクリーン印刷関連では、スクリーンマスクメーカーのムラカミがデモを敢行した。

 展示したのはフレームサイズ356o角のPET&SUSコンビネーションスクリーンマスクで、ワイヤー径は20μm、乳剤厚は15〜25μm。スクリーンメッシュ製版後にサンドブラスト処理することによってメッシュ表面に凹凸をつけて感光性乳剤との密着性を改善するとともに、乳剤露光時のハレーションを抑制した。このスクリーンマスクを用いて線幅100μmのAgペーストをスクリーン印刷してフィンガー電極を形成したシリコン太陽電池も展示。フィンガー電極を設けるとIsc(短絡電流密度)、FF(フィルファクター)とも上昇し、結果的に変換効率が向上する仕組みだ。

 前記のようにこのフィールドではレゾリューション、プレシジョンともさほど問われないため、スクリーンマスクにとっては価格と寿命がポイントで、太陽電池メーカーからは1万ショット以上のロングライフが求められるという。

ITOとAgをフレキソ印刷してローコスト化

 一方、フレキソ版メーカーのコムラテックは超大型薄膜シリコン太陽電池のローコスト化技術としてITOアノードとメタル補助電極&バッファ層をフレキソ印刷することを提案した。

 まず奥野製薬工業のナノディスパーITOペーストをフレキソ印刷し550℃で焼成した後、ハリマ化成のナノAgペーストをフレ


写真8 ITO+Agをフレキソ印刷したサンプル(コムラテック)

キソ印刷し170℃×30分で焼成したガラス基板サンプルを展示。ITO膜のみのサンプルは可視光透過率90%以上で、2層の比抵抗は3×10-6Ω・cm。ブースでは1200×1400oの第5世代マザーガラス対応のフレキソ版も披露。TFT-LCDのポリイミド配向膜向けで多くの出荷実績があるため、2300×2350oクラスの第8世代基板にも対応できる。個人的には高価なナノペーストを使用するという点が気になったが、説明員は「確かにナノペーストは比較的高価だが、従来の真空成膜+レーザーダイレクトエッチング法に比べれば大幅にローコスト化できる」と反論していた。

 

 

 




REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。