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SID 2012〜有機TFT編


SID 2012〜有機TFT編

 元来、SIDでは有機TFTの発表が少なく、今回は目ぼしい発表も少なかったため、ここでは1件の発表のみを取り上げる。

SAM処理を効果的に活用してTIPSペンタセンを単結晶化


図2 TIPSペンタセンの単結晶化のイメージ1)


図1 デバイス構造と単結晶TIPSペンタセン有機TFTの顕微鏡写真1)

 有機TFTではここにきてウェットプロセスで単結晶有機半導体を形成する報告が相次いでおり、そのキャリアモビリティも5〜30cm2/V・sとa-Si TFTを1桁以上上回るレベルになってきた。そうしたトレンドを受けてか、韓国のKorea Electronics Technology Institute、Dongguk University-Seoul、Chung-Ang Universityの研究グループは、TIPSペンタセンを表面改質技術と混合溶媒を用いることによりインクジェットプリンティング(IJ)法で単結晶化したことを報告した。

 まずシリコンウェハー上に膜厚200nmの熱酸化SiO2膜を成長させた後、Ti/Au膜を真空蒸着しリフトオフ法でパターニングしてソース/ドレインを形成した。続いて、Auソース/ドレインと有機半導体のコンタクト性を改善するため、Au膜の表面をペンタフルオロベンゼンチオール(PFBT)でSAM処理。さらに、単結晶有機半導体がチャネル領域に配置されるようゲート絶縁膜を表面処理した。具体的には、まずゲート絶縁膜をオクタデシルトリククロシラン(OTS)でSAM処理して疎水性に改質。続いて、チャネル領域だけに石英フォトマスクを介してディープUV光を露光してOTS分子を選択的に除去した。この結果、チャネル領域は親水性となり接触角が低くなる。この後、クロロベンゼンとドデカンの混合溶媒に濃度2wt%で溶解したTIPSペンタセンインクをIJ法でチャネル領域に滴下する。その結果、図1-(a)のようにインクは親水領域だけに選択的に付着し、単結晶化する。

 IJプロセス後に発生しやすいコーヒーリング現象を防止するとともに一様な単結晶構造を得るには、インク液滴の溶媒蒸発挙動をコントロールする必要がある。研究グループは以前、表面張力の低い高沸点溶媒を含む混合溶媒はインク液滴の対流を相殺するマランゴーニ流になりやすいと報告してきた。この経験にもとづき、前記のようにクロロベンゼンとドデカンの混合溶媒を使用した。これに前記の表面処理効果がプラスされる結果、単結晶TIPSペンタセン膜が得られる。

 単結晶化の過程ではインクから溶媒が揮発する際、図2のようにTIPSペンタセンの結晶核ができ結晶成長してチャネル領域を覆う。ここで重要なのは、結晶成長は表面エネルギーが大きな影響を与えること。異なるSAMによってAuの表面に官能基としてついたアントラセン分子の核活動は、表面エネルギーによって選択的に核サイトを形成すると説明できる。つまり、結晶成長が所定の位置でしか起こらないのはその強い表面エネルギーによる。すなわち、TIPSペンタセンがOTS処理された疎水性SiO2膜に着弾しても乾燥中に固定されず、結果的に液滴サイズは小さくなり、結晶成長の核ができない。これに対し、PFBTで修飾されたAu表面は接触線が円形状に固定され、膜上に結晶が成長する。

 図3はチャネル長5μm、チャネル幅50μmの単結晶TIPSペンタセン有機トランジスタのトランスファー特性で、キャリアモビリティはマックス0.44cm2/V・s(平均0.2cm2/V・s)、ON/OFF電流レシオは106以上だった。


図3 トランスファー特性1)

 ところで、トップコンタクト型ではチャネルとソース/ドレインのコンタクトはそのコンタクト形状からさほど重要ではない。これに対し、ボトムコンタクト構造では単結晶有機半導体はあらかじめパターニングされたソース/ドレイン上に形成される。したがって、成膜された単結晶有機半導体の成長は下層によって妨げられ、チャージトランスポートを阻害するコンタクト構造になりやすい。

 そこで、良好なコンタクト性を得るため、単結晶TIPSペンタセンをIJ印刷した後、溶媒リッチ雰囲気でアニールする溶媒蒸気アニールプロセスを行った。その結果、モビリティは1.7cm2/V・sと劇的に増加した。これはコンタクト性が改善されるとともに、溶媒リッチというハイエネルギー環境によりTIPSペンタセンの分子構造が改善されたためと考えられる。

参考文献
1)Y.-H.Kim, et al.:Printed Organic Single-crystal TFTs with Bottom-contact Structure, SID 2012 DIGEST, pp.1354-1356(2012.6)