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春季応用物理学会(3月11〜14日)


第62回応用物理学会 ノンドライプロセスで有機膜を積層化する報告が相次ぐ


図1 白色燐光有機ELデバイスの特性1)

 3月11〜14日、東海大学湘南キャンパスで開かれた「第62回応用物理学会春季学術講演会」。有機エレクトロニクス関連では、多層膜をウェット法やESD法で積層する報告が目立つなど、プリンタブルエレクトロニクスの実用化機運がより高まってきたように感じた。おもな発表をレポートする。

ダブルホストを用いて高効率な白色燐光デバイスを作製

 まず有機EL関連では、山形大学が独自のダブル発光層を有する高効率白色燐光デバイスについて報告した。2種類の発光ホスト材料を用いて高効率化するとともに低電圧化する狙いで、燐光デバイスにおける最大の弱点である高輝度領域での発光効率の低下を抑制することに成功した。

 ベースとなる青色燐光デバイスの基本構造はITOアノード(膜厚90nm)/HATCNホール注入層(5nm)/TAPCホール輸送層(65nm)/TCTA:fac-Ir(mpim)3 10wt%(5nm)/26DCzPPy:fac-Ir(mpim)3 10wt%(5nm)/B3PyPB電子輸送層(65nm)/Liq電子注入層(2nm)/Alカソード(100nm)で、発光層内にTCTAまたは26DCzPPy:PQ2Ir(dpm) xwt%(1nm)を導入して2波長化した。つまり、2種類のホスト材料である26DCzPPyとTCTAに対して青色発光ドーパントfac-Ir(mpim)3と赤色発光ドーパントPQ2Ir(dpm)をドープした。

 この結果、赤色ドーパントを挿入する位置によってELスぺクトルが変化し、これを発光層の中心に挿入したデバイスがもっとも高い特性を示した(図1)。具体的には、輝度100cd/m2時で駆動電圧3.17V、発光効率56.9lm/W(57.4cd/A)、CIE座標(x=0.50,y=0.42)、輝度1000cd/m2時で電圧3.35V、効率51.7lm/W(51.1cd/A)、CIE座標(x=0.48,y=0.42)が得られた。

CGLと電子注入層のレイヤー構成を工夫しオールウェットデバイスを作製

 また、山形大学の研究グループは電極以外の9層をウェット法で成膜した塗布型マルチフォトンエミッション有機ELについても報告した。

 試作デバイスの構造は図2の通りで、第1発光ユニットと第2発光ユニットを電荷発生層(Charge Generation Layer:CGL)で直列に接続した。この塗布型デバイスでは塗布型電子注入層には@高い電子注入性を確保する、A上層である第2発光ユニットの塗布積層時に溶解しない、という二つが要求される。そこで、@に対してはZnOナノ粒子とポリエチレンイミン誘導体(PEIE)を使用。また、その上部に成膜する塗布型CGLとしてリンモリブデン酸(PMA)を用いることにした。これは、PMAは水やアルコールといった極性溶媒に溶解する一方、ベンゼンやキシレンなどの無極性溶媒には溶解しないため。

 この結果、ZnO/PEIE積層膜は第2発光ユニット塗布溶媒に対して溶解せず、さらに第1発光ユニットへの溶媒の浸透を抑制。一方、アセトニトリルで溶解して塗布したPMA膜は第1発光ユニットを溶解させずに塗布可能で、さらに第2発光ユニットの溶媒であるキシレンに不溶であるため、CGLそのものや第1発光ユニットもダメージを受けない。


図3 塗布型MPEデバイスの電流効率特性2)


図2 塗布型MPEデバイスの構造2)

 図3は試作デバイスの特性で、コンベンショナルな蒸着デバイスと同様、ユニット数に比例した効率が得られ、MPEデバイスとして正常に機能することが確認できた。

ESD法なら同一溶媒を用いて有機膜の積層が可能

 一方、理化学研究所(理研)の研究グループは静電噴霧堆積(Electro Spray Deposition:ESD)法で有機層を積層した有機ELデバイスを報告。ESD法なら同一溶媒を用いても下層のダメージがない積層膜が成膜できることを示した。

 実験では、まずITOアノード付き基板上にPEDOT/PSSとPVKをスピンコートしてホール注入層とホール輸送層を形成。続いて、アセトン、クロロホルム、1-ヘプタノールの混合溶媒を用いて燐光ドーパントIr(piq)2(acac)と燐光ホスト1,3-Bis(N-carbazolyl)benzene(mCP)、次に電子輸送材料(大電製DYETM-17)を連続成膜した。ESDプロセスの成膜条件は印加電圧約5kV、溶液吐出量10μL/minに設定した。ここで混合溶媒を用いたのは@比誘電率が高いこと、A適度な蒸気圧を有すること、の2点が要求されるため。Aに関しては、成膜直後にセミウェット(半乾き)状態になっているのが望ましく、その結果、表面平滑性が高く、ユニフォミティの高い膜が得られる。つまり、下層を若干溶解させた状態で積層する。もちろん、この状態では有機溶媒が膜中に存在するため、成膜後に真空雰囲気で乾燥する。この結果、有機溶媒が完全にバーンアウトしたピュアフィルムが得られる。


図4 ESD法で2層を成膜したデバイスの特性3)


写真1 有機ELデバイスの断面SEM像3)

 この後、Al膜を真空蒸着してカソードを形成した。リファレンスのため、同じ有機溶媒を用いて成膜したスピンコート素子も作製した。

 写真1に作製した有機ELデバイスの断面SEM像を示す。ESD法で成膜した場合、発光層、電子輸送層を積層すると膜厚が徐々に厚くなり、表面が滑らかな積層膜が形成できた。これに対し、スピンコートデバイスでは下層膜が溶解し均一な積層膜が形成できなかった。実際、前者では赤色発光が観測できたが、後者では発光が確認できなかった。図4はESDデバイスの発光特性で、最大輝度も700cd/m2と比較的良好な値が得られた。


図5 逆構造有機ELデバイスの特性4)

市販のZnO系膜を透明カソード兼電子注入層に

 大阪府立大学の研究グループは、積層順序がコンベンショナルな順構造デバイスと逆にした逆構造有機ELデバイスについて発表。逆構造デバイスなら市販のAZO(AlドープZnO)膜またはGZO(GaドープZnO)膜を透明カソード兼電子注入層に用いたシンプルデバイスが実現できることを示した。最大の狙いは、活性で不安定なアルカリ電子注入層をレス化するとともに、封止の負荷を減らすことにある。

 試作したのはAZOあるいはGZO透明カソード(150nm)/F8BT発光層(100nm)/MoO3ホール注入層(10nm)/Auアノード(50nm)というシンプルデバイスで、最後にガラスで封止した。図5は電流密度-電圧特性および輝度-電圧特性で、電圧6Vで輝度1万cd/m2が得られた。これは従来報告されているITO透明カソードデバイスと同等である。また、図5のようにAZOデバイスとGZOデバイスでは大きな特性の違いはみられなかった。さらに、大気中でも安定動作するなど耐久性が高いことが確認できた。

塗布したポリイミド膜を基板&絶縁膜にした極薄有機トランジスタが

 有機トランジスタ関連では、山形大学大学院理工学部、山形大有機エレクトロニクス研究センター、JSTさきがけの研究グループが超薄型有機TFTの実現を図るため、基板レスデバイスを試作したことを報告した。ここでいう基板レスとはいわゆるコンベンショナルな固定サブストレートをレス化したデバイスで、支持基板上に塗布・硬化させたポリイミド膜を極薄サブストレートとして用いる。

 デバイス作製フローは、まず支持体であるガラス基板上にガラス転移点(Tg)の異なる2種類のテフロン(AF1600、AF2400)をスピンコートして剥離層を形成。この後、表面濡れ性を改善するため、剥離層表面をプラズマ処理した。続いて、ナノAgインクをインクジェット印刷(IJ)し、80℃または120℃で焼成してゲート電極を形成。次に、絶縁膜兼基板フィルムとしてポリイミド前駆体(京セラケミカル製)をスピンコートし、180℃で焼成することにより厚み700nmのポリイミド絶縁膜を形成した。

写真2 ピーリングの様子5)


図6 基板フリー有機トランジスタの断面構造5)

 剥離層の種類、プラズマ処理、電極焼成条件を最適化したところ、剥離層表面をプラズマ処理することによってナノAgインクが印刷できるようになり、ポリイミド前駆体も剥離層上に形成できるようになった。ただし、Tgが低いAF1600を用いた場合、120℃で焼成するとポリイミド前駆体の成膜性が急激に悪化した。一方、AF2400を用いた場合は120℃焼成でもポリイミド前駆体の成膜性が良好だった。これは、O2プラズマによって改善された表面濡れ性がテフロンのTg付近での加熱によって再びプラズマ処理前の状態に戻ってしまうためと考えられる。

 写真2はAF2400を用いて最適条件で形成したゲート電極とポリイミドを支持ガラスから剥離している様子で、ポリイミドが良好に剥離されるとともに、IJ法で印刷したゲート電極がポリイミド側へ完全に転写されていることがわかる。

参考文献
1)宇田川ほか:高効率白色リン光有機ELデバイスの開発、第62回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、11-046(2015.3)
2)千葉ほか:塗布マルチフォトンエミッション型有機EL素子、第62回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、11-049(2015.3)
3)高久ほか:静電噴霧堆積法による有機EL材料の積層化、第62回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、11-011(2015.3)
4)高田ほか:酸化亜鉛透明導電膜を用いた逆構造有機発光ダイオードの作製と評価、第62回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、11-048(2015.3)
5)福田ほか:酸全印刷手法による基板レス有機トランジスタの作製−剥離層と絶縁膜の条件探索−、第62回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、11-535(2015.3)


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

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