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有機エレクトロニクス研究会(5月16日)


有機エレクトロニクス研究会 有機ELのホール注入層として水で溶解して塗布したMo
O3を提案

 5月16日、都内で電子情報通信学会主催による「有機エレクトロニクス研究会(OME)-有機材料作製評価及び基礎物性、一般-(OME2013-23〜30)」が開かれた。このなかで、富山大学の中茂樹氏は、有機ELデバイスのホール注入層形成法として水に酸化物半導体を溶解してウェットコートするというシンプルなプロセスを提案した。同氏の講演内容をピックアップする。

 今回の研究は酸化物半導体をローコストなウェットプロセスで成膜してホール注入特性を高めるのが狙いで、通常は水や有機溶媒に溶解しない透明塗布型酸化物半導体(TOS)も極薄膜を前提にした超低濃度にすれば薄膜形成できると考えた。実験したのはMoO3、WO3、GeO、AgOの4種類で、水に分散させた超希薄溶液をITOアノード付きガラス基板上にスピンコートした。濃度はもっとも溶けにくいAgOが0.002wt%、それ以外が0.05wt%である。塗布後、大気中で210℃×15分間ベーク処理した。推定膜厚は4nm程度である。まず、膜の表面平滑性を調べたところ、いずれのTOS膜とも成膜前のITO膜とほとんど変わらなかった。

 そこで、このTOSホール注入層上にHT-12インターレイヤー、Green1304緑色発光層(いずれも住友化学製)をスピンコート法によって成膜。この後、LiFとAlを真空蒸着して高分子有機ELを作製した。


図2 塗布MoO3素子と蒸着MoO3素子の特性比較1)


図1 素子の特性比較1)

 それぞれのデバイス特性を評価したところ、まずWO3素子はホール注入層レスのリファレンスに比べ特性が向上したものの、リーク電流が多く発生した。これは水に対するWO3の溶解性が低いため、基板上で均一な膜が得られなかったためと考えられる。

 また、AgO素子はリファレンスと比べても特性改善がみられなかった。これは前記のように水に対する溶解性が非常に低いため超低濃度にした結果、基板表面を完全に被覆できなかったためと考えられる。

 一方、GeO素子もリーク電流が多く特性が安定しなかった。そこで、水溶液の液温を70℃にしてスピンコートしたところ特性が大幅に改善し、電流密度100mA/cm2時で4100cd/m2という輝度が得られた。こうした常温時と加温時の結果の違いは、いうまでもなく水に対する溶解性の差と説明できる。

 これらに対し、MoO3素子はこれまでに報告されている蒸着素子からも予想できるようにもっとも高い特性を示し、電流密度100mA/cm2時で5000cd/m2という高輝度が得られた。これは図1のようにスピンコートしたPEDO/PSS素子、さらに図2のように蒸着MoO3素子とほぼ同じだった。

 そこで、ITO/MoO3/HT-12/Green1304/MoO3/Auというホールオンリーデバイスを作製し、ITOアノードからのホール注入障壁を評価した。その結果、MoO3レス素子はホール注入障壁が0.30eVだったのに対し、MoO3を挿入すると0.16eVに低下することがわかった。そのため、ホール注入特性が改善されて特性が向上したわけである。

 さらに、赤色素子、青色素子でもMoO3バッファ層の効果を検証。ここでも緑色素子と同様、特性向上効果と発光ユニフォミティ向上効果が確認できたという。

参考文献
1)中ほか:塗布型酸化物半導体バッファ層を用いた有機EL素子、有機エレクトロニクス研究会OME2013-23〜29資料、pp.23-27(2013.5)


REMARK
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2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

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