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2011年度第1回「P&I」・「E&S」共催シンポジウム「プリンタブルエレクトロニクス 現状と将来展望」(5月24日)


2011年度第1回「P&I」・「E&S」共催シンポジウム「プリンタブルエレクトロニクス 現状と将来展望」
フォトリソ並みの精度を誇る反転オフセット印刷法の存在感が急上昇

 5月24日、都内で開かれた2011年度第1回「P&I」・「E&S」共催シンポジウム「プリンタブルエレクトロニクス 現状と将来展望」。日本印刷学会の主催によるシンポジウムで、プリンタブルエレクトロニクス向け印刷技術が一堂に会した。7件の講演のなかから、日立製作所 牛房信之氏の講演をはじめ3件をピックアップする。

市販インフラでは高精度印刷は不可能


図2 テンション処理後の引っ張り試験結果1)

図1 引っ張り試験結果1)

 プリンタブルエレクトロニクスの主要印刷メソッドといえるスクリーン印刷に関しては、この分野のエキスパートである牛房氏が「高精度スクリーン印刷技術」と題して講演。高精度印刷を行うには高精度印刷システムを確立する必要があることを強調した。

 ここでいう高精度印刷システムとは、スクリーン印刷の構成要素である印刷機、スクリーンマスク、ペースト、印刷ワークを最適化することである。しかし、従来はデバイスメーカーがこれらの構成要素を自ら設計することはなく、印刷機メーカーは印刷機、スクリーンマスクメーカーはスクリーンマスクというようにそれぞれの専門メーカーに任せて印刷システムを構築してきた。これでは高精度かつ高精細な印刷は実現できない。このため、高精度・高精細印刷を実現するにはこれら標準仕様ではないカスタムメードなインフラを開発する必要がある。このため、同氏の開発グループはこれまでエアー離着印刷機(http://www.stellacorp.co.jp/media/exibition_past/0901nepcon.html参照)や温度精密制御印刷機などを独自に設計。印刷機メーカーに製造を委託することで高精度印刷にトライしてきた。


図4 市販メッシュと試作メッシュの伸び度比較1)

図3 テンション処理荷重と伸び度差の関係1)

 今回はそうした最新事例としてスクリーンマスクの寸法精度改善方法、とくに初期印刷精度を高めた成果を紹介した。

 まず、初期印刷精度をスクリーンマスクの寸法座標と印刷基板の寸法座標の位置ずれ量と定義。位置ずれのおもな原因は、スクリーン印刷によってスクリーンメッシュの縦糸と横糸の変形量が異なるためであることを突き詰めた。図1は230メッシュ(線径25μm)に荷重をかけた際の伸び量で、横糸に比べ縦糸の伸びが大きいことがわかる。これは、印刷時に平行四辺形に印刷形状が変化することを意味する。また、メッシュのテンション処理荷重による伸び量を測定したところ、図2のようにテンション処理荷重を大きくすると縦糸方向と横糸方向の伸び差が低減できることがわかった。さらに、メッシュ製織後に縦糸方向のみにテンション処理を施すことにより、その差は初期値の0.22%から0.07%に低下した。


図5 初期印刷精度結果1)

 くわえて、横糸と縦糸の伸び量が異なるのは印刷時にそれぞれの変形状態が異なるためと考え、これを同一にするため、メッシュ仕様を変更することを試みた。具体的には、市販の230メッシュ(線径25μm)をベースに横糸の本数を180〜230本/インチと変化させるとともに線径を23μmにしたところ、図4のように縦糸と横糸の伸び量がほとんど変わらないことがわかった。そこで、これら横糸と縦糸のメッシュ仕様とテンション荷重処理を最適化した強伸度バランスメッシュを用いて印刷したところ、図5のように版枠3200×3200oという巨大スクリーンマスクでも初期印刷精度を±10μmに高めることができた。もちろん、印刷後の異形変形もみられず、印圧やクリアランスにもほとんど依存しないことが確認できた。

反転オフセット印刷法にはフォトリソ並みの実力が

 スクリーン印刷以外では、反転オフセット印刷法に関する講演が相次いだ。まずは、このメソッドのオーソリティである光村印刷で、同社の三瀬幸吉氏が独自の凸版反転オフセット印刷法の実力を報告した。

 周知のように、凸版反転オフセット印刷法はインクをベタコートしたブランケットローラーを凸版に接触させて凸部に余分なインクを転写除去した後、残ったインクを本パターンとしてワークに転写印刷する。版の凹部に充填されたインクをブランケットローラーで掻き取ってワークへ転写する従来のオフセット印刷法とは、根本的にメカニズムが異なる。ここで重要なのはシリコンブランケットに塗布したインクをキスタッチライクで100%ワークに転写することである。この結果、従来のオフセット印刷法のように版とブランケットの双方に引っ張られる“糸引き現象”が発生しない。これは、印刷ムラが大幅に低減することを意味し、高精度なファイン印刷が実現する。


写真2 BMパターンの形状比較2)


図6 シリコンブランケットの膨潤量測定結果2)


写真1 CFのパターニング例2)

 同社はSTN-LCD用カラーフィルター(CF)のパターニングに量産採用。RGB着色層に加えブラックマトリクス(BM)にも適用する4色一括プロセスによりプロセスステップ数を大幅に削減することに成功している。

 写真1は各種CFのパターニング例で、RGB着色層やBMはもちろんのこと、半透過型STN-LCD用CFの透過開口部という微細パターンも高精度で印刷できていることがわかる。もちろん、印刷形状にも制約はなく、写真2のようにBMはコンベンショナルな顔料分散フォトリソ法に比べシャープなパターンが形成できる。これは、顔料分散法が感光性ブラックレジストの光硬化性に起因するエッジ部での露光ボケが発生してエッジが丸くなるのに対し、印刷法では非感光性ブラックインクを用いるためそうした問題がないためである。印刷解像度は数μmで、印刷絶対位置精度も550×650o基板でマスク設計値に対し±3μm以内を実現。オフセット印刷法で懸念されるシリコンブランケットの膨潤も図6のように印刷開始後10枚程度で安定しており、量産安定性もまったく問題ないという。

 なお、反転オフセット法は版に転写除去したインクを基本的に廃棄しているため、顔料の材料利用率という点ではフォトリソ法と変わらない。

水なし平版で反転オフセット印刷を


図7 剥離オフセット印刷法のイメージ3)

写真3 水なし平版と印刷基板の表面平滑性3)

 一方、東レの後藤一起氏は商業印刷で一般的に用いられている水なし平版をプリンタブルエレクトロニクス分野に応用することを提案。剥離オフセット印刷法と名づけたニュープロセスを紹介した。

 といっても、プロセススキームは反転オフセット印刷法と似ており、水なし平版を用いる点が異なる。フローは図7の通りで、まずレーザー照射法でパターニングした水なし平版に低粘度インクをベタコートする。続いて、シリコンブランケットで平版のシリコーンゴム層上のインクを掻き取ってワークに転写印刷する。転写ブランケットには市販のシリコンブランケットを使用。つまり、水なし平版上のシリコーン層のインク反発性を利用してインクを転写する。その明確なメカニズムは明らかにしなかったが、インク反発性は“平版上のシリコーン層>シリコンブランケット>樹脂層(非画像部)”となるようにシリコーン層のインク反発性を設定するとみられる。印刷時にワークに対してはインクを100%転写するため、光村印刷の反転オフセット印刷法と同じハイプレシジョン&ハイレゾリューション効果が得られる。また、水なし平版は元来表面が平滑なため、写真3のように印刷面の表面平滑性も高い。

 ただ、解像度20μm以下が求められるエレクトロニクス分野に適用するには水なし平版を改良する必要があった。とくに問題だったのが現像時におけるシリコーンゴム層の削れによる形状変化(図8)で、ファインパターンの印刷では頂部の面積が減少することによって十分なインク量を確保するのが難しかった。そこで、樹脂層やシリコーンゴム層の材料設計を最適化するとともに、現像工程における擦り材や擦り方向を変更。この結果、写真4のようにパターンのエッジシャープネス性を大幅に改善。印刷解像度もL&S=5μm/5μmまで向上した。

写真4 従来版(左)と改良版(右)の顕微鏡写真3)

図8 擦り現像法のイメージ3)

 ちなみに、前記の光村印刷の反転オフセット印刷法ではフォトリソ+ウェットエッチングによって彫刻パターニングしたガラス凹版を用いる。これに対し、水なし平版はローコストで作製できるものの、熱膨張性やパターニング解像性という意味では劣るのは否めないと感じた。

参考文献
1)牛房:高精度スクリーン印刷技術、2011年度第1回「P&I」・「E&S」共催シンポジウム「プリンタブルエレクトロニクス 現状と将来展望」資料、pp.1-6(2011.5)
2)三瀬:反転印刷法、2011年度第1回「P&I」・「E&S」共催シンポジウム「プリンタブルエレクトロニクス 現状と将来展望」資料、pp.35-43(2011.5)
3)後藤:水なし平版とプリンタブル・エレクトロニクス、2011年度第1回「P&I」・「E&S」共催シンポジウム「プリンタブルエレクトロニクス 現状と将来展望」資料、pp.67-81(2011.5)


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。