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第71回応用物理学会学術講演会


第71回応用物理学会学術講演会
塗布型有機トランジスタでのニュープロポーザルが相次ぐ

 今秋、長崎大学で開かれた「第71回応用物理学会学術講演会」。予稿集をベースにトピックスをピックアップする。


図1 発光材料の分子構造1)

発光層に液状有機半導体を用いてフレキシブル化&長寿命化を

 まずは有機EL関連からで、九州大学と日産化学工業は発光層に液状有機半導体を用いたデバイスを報告した。特徴は、@曲げても電極界面と発光層の剥離が生じないため、フレキシブル化が容易である、A常に液体発光体を流動させながら発光させるため、素子の劣化が抑制され超寿命化できる、といった点が挙げられる。

 実験では、まずITO膜付き基板上にPEDOT/PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸)をスピンコートしてアノード基板を作製。一方、カソード基板は同じくITO膜上にTiO2膜をスパッタリング成膜した後、図1のような有機塩とゲスト化合物をドープした液体半導体ホストを膜厚1100nmで滴下。両面基板を重ね合わせて素子を作製した。


図2 電流密度-電圧-輝度特性の比較1)

 図2-(a)にTiO2層レス素子における有機塩添加の有無による電流密度-電圧-輝度特性を示す。有機塩を添加すると電流密度の変化は小さかった一方、発光開始電圧が大幅に低下するとともに、輝度・外部量子効率も大幅に向上した。これらは、電圧印加とともにアノード付近にアニオンが、カソード付近にカチオンが移動し、これらが電気二重層を形成して電極からのキャリアのトンネル注入が増加するためと考えられる。また、図2-(b)のようにTiO2層を挿入すると外部量子効率が向上した。TiO2は深いHOMOレベルを有するため、ホールは液体半導体層とTiO2界面で効率よくブロックされてカソードへのリーク電流が減少する。一方、有機塩の添加によってTiO2層から液体発光層への電子注入も効率化される。これらの結果、ホールと電子の再結合バランスが改善され、外部量子効率が向上したと考えられる。

基板を高速走行させながらRoll to Rollで蒸着すると有機分子が配向

 北陸先端科学技術大学院大学は、Roll to Roll方式で有機薄膜を蒸着すると分子が配向するというユニークな発表を報告した。


図3 ドラム式蒸着装置の構造2)


図4 走行速度4m/sで成膜したα-6T膜の偏光
吸収・蛍光 スペクトル2)

 Roll to Rollプロセスを模したドラム式蒸着装置(図3)のドラム外周部分に石英基板をセット。チャンバ内を10-4Paまで減圧した後、基板を走行(ドラム回転)させながらα-6Tを膜厚20nmで蒸着した。蒸着レートは0.007nm/sである。

 図4に基板を4m/sで高速走行させて成膜したα-6T膜の偏光吸収スペクトルと偏光蛍光スペクトルを示す。基板の走行と平行方向では偏光スペクトル強度が大きくなり、垂直方向では偏光スペクトル強度が小さくなったことから、基板の走行方向にα-6T分子の長軸が配向したと考えられる。基板走行速度を0.1m/s、1m/s、2m/s、3m/s、4m/sに変化させて評価したところ、走行速度が速いほど分子がより配向した。高速走行による分子配向モデルとしては、ガス速度が基板走行速度より小さい分子がまず最初に配向し、この配向分子を核として成長することで配向薄膜が得られると推測される。

塗布型有機半導体にシリカナノ粒子を分散させて濡れ性を改善

 有機トランジスタ関連では大阪府立大学、シチズンホールディングス、東京大学、扶桑化学工業、大阪市立工業研究所の研究グループがナノ粒子を用いた塗布型有機トランジスタについて報告した。

 周知のように、溶剤可溶型有機半導体はゲート絶縁膜表面に疎水化処理を施すと大幅にキャリアモビリティが向上するが、その一方で濡れ性が著しく低下するという問題がある。そこで、研究グループは可溶型有機半導体材料にシリカナノ粒子(NPs)を分散することにより疎水基板の濡れ性を改善した。


図6 P3HT膜のXRDパターン3)


図5 電界効果移動度のNPs分散濃度依存性3)

 SiO2膜付きシリコン基板をUVオゾン処理した後、オクタデシルトリクロロシラン(ODTS)でSAM処理して疎水化処理した。処理後の水の接触角は105度である。各種濃度でNPsを分散したP3HT有機半導体溶液をスピンコートした後、Au対向電極を真空蒸着してトップコンタクト型デバイスを作製した。

 トルエンで希釈したP3HT溶液(1wt%)は表面エネルギーが低いODTS処理基板上では塗布が困難だったが、NPsを0.2wt%程度分散することで濡れ性が著しく改善され均一塗布が可能になった。図5に電界効果移動度のNPs分散濃度依存性を示す。ODTS処理基板上での移動度はNPsの分散濃度が高くなると低下するが、低濃度分散ではNPsレスと同等の高い移動度が得られた。一方、UVオゾン処理基板上ではNPsの分散によって移動度が増加するという特異な現象がみられた。

 図6はODTS基板上におけるX線回折で、P3HTはNPsの分散によっての結晶性が向上した。このため、UVオゾン基板上での移動度アップが生じたと考えられる。一方、ODTS基板上ではNPsの分散によってキャリア輸送が阻害される影響の方が大きくなり、移動度が低下した。これらの結果から、可溶型有機半導体にシリカナノ粒子を分散すると濡れ性や結晶性が改善できることが確認できた。

新たな塗布法で塗布型有機半導体の特性を向上

 大阪大学と広島大学の研究グループは、新たな塗布方法を用いて塗布型DNTT(ジナフトチオノチオフェン)のモビリティを6cm2/V・sに高めることに成功した。


図8 トランジスタ特性4)


図7 塗布法のイメージ4)

 この方法は、図7-(b)のように基板上に小さな隙間(ギャップ)ができるよう溶液を保持する構造体を傾斜配置し、このギャップに有機半導体溶液をキャピラリーフォースによって一様に展開・乾燥させる仕組み。この際、基板は約120℃で加熱する一方、C10-DNTTを120℃に加熱したジクロロベンゼンに溶解させギャップ中に展開させた。この結果、有機半導体溶液がギャップ中にしっかりと保持されるとともに、溶液の乾燥方向が一定に定められるため配向性の揃った結晶膜が得られる。作製した膜を乾燥させた後、Auをソース/ドレイン電極にしたトップコンタクトデバイスを作製した。

 図8-(a)、(b)のように、試作デバイスの飽和領域における移動度は6cm2/V・sを示した。また、Au電極からの注入も良好で、駆動電圧の低減も期待できる。

ピュアC60をウェットプロセスで成膜

 東京大学は代表的なn型有機半導体であるフラーレンC60をウェットプロセスで成膜し、コンベンショナルな蒸着C60デバイスに近い特性が得られたことを報告した。

 周知のようにC60薄膜をウェットプロセスで成膜する場合、C60誘導体が使用されてきたが、蒸着型C60デバイスの特性にははるかに及ばない。そこで、研究グループではピュアC60をウェットプロセスで成膜することにした。いうまでもなく、この場合、C60誘導体のような合成プロセスが不要になり、材料製造コストも削減できる。


図9 デバイス構造とSEM像5)


図10 C60有機トランジスタのトランジスタ特性5)

 図9はデバイス構造とチャネルの顕微鏡像で、C60膜パターニングのため複数の異なる自己組織化単分子膜(SAMs)を用いる。具体的には、まずヘキサメチルジシラザン(HMDS)によってSiO2表面を処理した後、メタルマスクを用いてUVオゾンによりチャネル部分のHMDS処理表面を選択的にエッチングする。続いて、ジフェニルテトラメチルジシラザン(DPTMDS)によって表面処理を行い、HMDSがエッチングされた部分にDPTMDS処理表面を施す。C60チャネル層はキシレンに溶解させたC60溶液を滴下。この際、HMDS処理表面とDPTMDS処理表面での濡れ性の差によって溶液はDPTMDS処理表面上にとどまりC60の結晶が残る仕組み。

 図9の写真のようにC60は針状結晶であり、パターニング領域の一部のみにC60結晶が形成された。図10はトランジスタ特性で、飽和領域のモビリティはパターニング領域をチャネル幅(W=1mm)とすると0.85×10-3cm2/V・sだが、電極に接触している結晶の幅(W=13μm)を仮定して算出すると0.066cm2/V・sだった。

ステンレス基板上に垂直配向CNTをダイレクト合成

 CNT(カーボンナノチューブ)関連では、大阪大学がステンレス基板上に垂直配向CNTをダイレクト成長させることに成功した。容易に想像できるように、この場合、ステンレス基板に含まれるFe、Cr、Niが炭素源と反応し、CNTを基板上でダイレクト合成することが難しい。このため、ステンレス基板上にポリイミドバッファ層を挿入することにした。


写真2 AFM像の比較6)

写真1 垂直配向CNTの断面SEM像6)

 サブストレートには板厚0.05μmのSUS 304を使用。SUS上にポリイミド膜を膜厚5μmで塗布した後、Al膜(膜厚10nm)とFe膜(4nm)をスパッタリング成膜して触媒層を形成した。この後、大気圧CVD法を用いて基板温度680℃、C2H2流量15sccm、Heキャリアガス流量245sccmでCNTを成長させた。

 この結果、写真1のように合成時間10分で高さ38μmの垂直配向CNTが得られた。一方、ポリイミドバッファレス基板ではCNTは合成できなかった。これは、触媒として作用したFeを含む微粒子の形成過程から説明できる。写真2にC2H2を供給しない状態でCNT合成温度まで加熱した基板表面形状のAFM像を示す。(a)はポリイミドバッファ層がある場合、(b)はバッファ層がない状態でSUS基板上に直接AlとFeを成膜したものである。AlとFeの膜厚は同じにも関わらず、バッファ層を設けた基板(a)では触媒微粒子径が小さく、粒子間隔も均一である。これに対し、(b)は凝集が目立ち粒子径も大きい。ポリイミド膜はこの温度で多孔質構造になることが知られており、この構造が基板の表面エネルギーを調整し、(a)のように触媒の凝集を抑制したと考えられる。つまり、(a)では触媒微粒子が有効に働いて垂直配向CNTが合成できたのに対し、(b)は触媒粒径が大きすぎて触媒活性が失われたと考えられる。

ナノダイヤ/CNW複合膜で電界遮蔽効果を抑制

 新たなナノカーボンとして注目されるカーボンナノウォール(CNW)では、九州大学がCNWの弱点である電界遮蔽効果を抑制したことを報告した。周知のように、CNWはナノグラファイトが重なり合って二次元的なウォールを形成し、基板に対してほぼ垂直に成長したナノカーボン。高いアスペクト比と面内連続性を合わせ持つため、ジュール加熱の影響が少ないという特徴がある。しかしながら、ウォールが高密度に近接して生成されることから電界遮蔽効果が生じるため、電界促進効果はさほど高くない。そこで、研究グループではナノダイヤモンドとCNWの複合膜によるフィールドエミッタを作製することにした。

 どちらもC2ラジカルリッチなプラズマ環境下で合成できるためで、マイクロ波プラズマCVD法によってナノ構造複合膜を形成した。具体的にはn型シリコンウェハーをダイヤモンドパウダーによるスクラッチ処理を施した後、CH4/N2/Ar混合ガスを用い2.45GHzのマイクロ波を照射してナノ構造複合膜を成膜した。なお、触媒金属は不要である。

 実験の結果、CNW単体の電子放出しきい値電界は約3V/μmだったのに対し、ナノダイヤモンド/CNW複合膜のしきい値電界は約1V/μmに減少した。Fowler-Nordheim(FN)プロットは直線で近似できることから、電子放出はトンネル過程によるものであることが確認された。FNプロットから求めた電界促進因子はCNW単体が数百だったのに対し、ナノダイヤモンド/CNW複合膜が数千(>CNWのアスペクト比)だったことから電界遮蔽効果が十分抑制されたと考えられる。

参考文献
1)平田ほか:液体半導体を発光層に有する有機EL素子の発光特性の改善、第71回応用物理学会学術講演会講演予稿集、12-279(2010.9)
2)松島ほか:基板の高速走行による有機分子の配向特性、第71回応用物理学会学術講演会講演予稿集、12-287(2010.9)
3)吉川ほか:塗布型有機電界効果トランジスタにおけるナノ粒子分散効果、第71回応用物理学会学術講演会講演予稿集、12-334(2010.9)
4)植村ほか:ジアルキルジナフトチエノチオフェンの高移動度塗布型OFETs、第71回応用物理学会学術講演会講演予稿集、12-365(2010.9)
5)康ほか:塗布プロセスにより作製したC60電界効果トランジスタ、第71回応用物理学会学術講演会講演予稿集、12-363(2010.9)
6)筒井ほか:ポリイミドバッファー層を用いたステンレス上へのカーボンナノチューブ合成、第71回応用物理学会学術講演会講演予稿集、17-053(2010.9)
7)中島ほか:ナノダイヤモンド/炭素ナノウォール複合膜のプラズマCVD合成と電界放出特性、第71回応用物理学会学術講演会講演予稿集、08-145(2010.9)


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。