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FPD International 2011(10月26〜28日)


FPD International 2011
TMDが3Dディスプレイや超高精細低温Poly-Si TFT-LCDで圧倒的存在感
海外勢ではAUOがフレキシブル有機ELD&E-PaperやIGZO-TFT駆動パネルをPR
FPD用インフラは反射型偏光板や導電粒子配列型ACFに新鮮味が

10月26〜28日、パシフィコ横浜で開かれた「FPD International 2011」。例年、1か月ほど前に開かれた「CEATEC JAPAN」の流れを引き継いだ形となるが、エネルギー関連に主役の座を奪われた感のあるCEATEC JAPAN 2011に比べFPD関連のトピックスが多く、とくにフレキシブル有機ELD&電子ペーパーをはじめフレキシブルディスプレイ関連が人気だった。おもなトピックスをレポートする。


写真1 FPR方式47型パネルとSG方式46型パネルの比較デモ(LG Display)

 まず近年、FPDエキジビションのトレンドとなっている3Dディスプレイはここにきて薄型テレビでブームが一段落したせいか、出展物の前に黒山の人だかりという現象はみられず、総じてデモも下火に感じた。

 こうしたなか、特殊メガネを用いて3D化する3Dメガネ方式ではLG Displayが比較デモを敢行。偏光メガネ+パターン化位相差フィルム方式(FPR:Film Patterned Retarder)の47型TFT-LCDとアクティブシャッターグラス+時分割駆動方式(SG:Shutter Glasses)の46型TFT-LCDを隣接展示した。周知のように、同社はFPR、ライバルのSamsung ElectronicsはSGを採用しており、FPRの優位性を露骨にアピールしたデモだった。FPRはフリッカーフリーでリフレッシュレートも速いなど動画表示特性に優れていることをアピールしていたが、個人的にはSGも3D表示の完成度が高く、クオリティはさして変わらないように感じた。

左右のLEDを交互に時分割点灯して3D化


図1 時分割二眼式3D-OCBの表示イメージ


写真2 3D対応21型低温Poly-Si TFT-LCD(TMD)

 他方、グラスフリー方式ではこの分野で先行する東芝モバイルディスプレイ(TMD)のデモが注目を集めた。すでに製品化しているインテグラルイメージング方式(別名レンチキュラー方式)では12.1型パネル(466×350画素)、21型QUXGA(3840×2400画素)パネルを展示。ピクセルを9分割し視差を九つにして3D化する仕組みで、サブピクセルの多分割化に当たっては高精細化に有利な低温Poly-Si TFTを採用。昨秋から12.1型パネルを製品化していることもあり、その完成度は高く、来場者から“グラスフリータイプでは一番の出来”との声があがっていた。

 これに対し、新たなグラスフリー3D方式としてアピールしたのが時分割二眼式3D-OCB。高速液晶モードであるOCB(Optically Compensated Bend)モードを採用し、1/2フレーム毎に左目用画像と右目用画像を交互に表示する仕組みで、パネルの左端に配置した白色LEDだけを点灯させて左目用画像を表示する一方、右端に配置した白色LEDは右目用画像の表示だけに用いる。つまり、それぞれを120Hzで点灯させて結果的に60Hz表示にする。このため、バックライト光の光利用効率は通常のパネルと同じである。一方、2D表示の場合は左右のLEDを同時に点灯させて60Hzでドライブする。展示したのは3型ワイドQVGAパネル(400×240画素)、4.3型ワイドVGAパネル(800×480画素)、8型ワイドVGAパネル(800×480画素)で、高精細な4.3型パネルはアクティブ素子に低温Poly-Si TFTを用いた。なお、製品化計画については未定とのこと。

世界最大の56型グラスフリー3D TFT-LCDがコマーシャルレベルに


写真4 6.1型低温Poly-Si TFT-LCD(TMD)

写真3 56型TFT-LCD(Chimei Innolux)

 Chimei Innoluxはレンチキュラー方式のグラスフリー3Dディスプレイとして56型TFT-LCDを展示。もちろん、グラスフリータイプでは世界最大サイズで、その解像度も2D表示時で3840×2160画素、3D表示時で1440×720画素に達する。こちらは視差を八つにしたもので、すでにマスプロダクション段階だという。ただ、個人的には3Dの臨場感は不足していたように感じた。

写真と同等画質の超高精細TFT-LCDが

 モバイル用ディスプレイで圧巻だったのがTMDの超高精細低温Poly-Si TFT-LCD。既存の低温Poly-Si TFT-LCD技術をブラッシュアップしただけでニューテクノロジーを盛り込んでいるわけではないが、世界最高の高精細6.1型ワイドQXGAパネル(2560×1600画素)の解像度は実に498ppiに達する。“写真と同じ解像性”というキャッチコピーも決して大げさではなく、表示画像はまさに写真レベルのハイレゾリューション。もちろん、顔を近づけても画素はまったく認識できない。ここまでくると、2D表示ながら奥行きのある3Dライクな高い臨場感が表現できるようだ。ブースではこのほか3.45型ワイドVGA(310ppi)、4型HD(367ppi)、7.5型ワイドQXGAパネル(403ppi)パネルも展示。いまさらながら“画質=解像度”という常識を再認識させられた。

スマートフォンにはIPS-TFT-LCDがベストか?


写真5 AH-IPSとAMOLEDの消費電力比較(LG Display)

写真6 AH-IPSとAMOLEDの解像性比較(LG Display)

 モバイル機器用ディスプレイでは、LG Displayがスマートフォン専用のIPSモードTFT-LCD“AH-IPS”を大々的にアピールした。といってもAH-IPS自体はとくに新しいテクノロジーではなく、スマートフォン向けに高精細&低消費電力を打ち出したニューブランドという位置づけだ。もちろん、sRGB規格で色再現性100%、そして輝度700cd/m2というハイスペックだけに、そのクオリティはさすがにスマートフォン専用パネルといったところ。しかし、インパクト抜群だったのがアクティブマトリクス駆動有機ELディスプレイとの比較展示だった。AH-IPSはAM駆動有機ELDに比べ、@解像度、A色再現性、B消費電力、C放熱性も踏まえたライフタイム、の点で有利と主張。写真5はリアルタイムの消費電力を示したデモで、AN-IPSはAM駆動有機ELDに比べ1/2程度に消費電力が抑制できるため、スマートフォンのバッテリー使用時間が伸びることをアピール。また、パネルの解像性も比較。その解像度は329ppi VS 217ppiとスペックが示すとおり、写真6の拡大写真のように有機ELDは文字がにじむ様子を示した。さらに、画像表示時のパネル表面温度はAH-IPSが39℃であるのに対し、有機ELDは49℃と熱損失が大きく、これが結果的にライフタイムを左右するとアピール。AN-IPSはスマートフォンにベストであることをしつこいぐらいに強調した。周知のように、同社はアクティブ有機ELDも量産しているが、今回のデモを見る限り、スマートフォン用はAN-IPSに特化するようで、リファレンスであるアクティブ有機ELDは競合メーカーのPentile方式パネル搭載品だったとみられる。

Samsung Electronicsは高精細IGZO-TFT-LCDをアピール


写真7 10.1型IGZO-TFT-LCD(Samsung)


写真8 MEMSシャッター方式ディスプレイ(Pixtronix)

 これに対し、世界最大のFPDメーカー、Samsung Electronicsは今回総じて地味なエキジビション風景で、毎年行ってきた“対LGデモ”もなく、目玉にも乏しい印象を受けた。そうしたなか、唯一に近いトピックスは10.1型ワイドQXGA対応IGZO-TFT-LCDだった。同社は昨年、IGZO(In-Ga-Zn-O)-TFT駆動の70型パネルを公開してその大型化ポテンシャルを示したが、今年は高精細ポテンシャルを示した格好。このサイズで2560×1600画素とスーパーハイレゾリューションだけに、見栄えはかなりgoodだったが、相変わらず線欠陥がみられるなど完成度はいまひとつ。解像度以外で強調していたのは額縁サイズが1.5oと狭いことで、消費電力もこのサイズで26mWとローパワーだという。

MEMSシャッター方式ディスプレイも公開されたが・・・・・・

 昨年の「CEATEC JAPAN 2010」で日立ディスプレイズがプロトタイプを公開して一躍注目を集めたMEMSシャッター方式ディスプレイ。今回、日立ディスプレイズはパネルを展示しなかったが、基本技術の開発元である米Pixtronixがデモを敢行。TFTの代わりにMEMSシャッターアレイを用いてRGBバックライト光の透過量を制御するというメカニズムから、色再現性がNTSC比135%と高いほか、光透過率が60%程度と高いため消費電力がa-Si TFT-LCDの25%とローパワーな点を強調した。ただ、プロトタイプは線欠陥、点欠陥ともきわめて多く、完成度はかなり低かった。こうした出来映え、さらに日立ディスプレイズから出展がなかったことも考えると、マーケットに登場するのはまだ時間がかかるように感じた。

AUOがIGZO-TFT駆動有機ELDでトピックスを連発

 ここにきて携帯電話やスマートフォン用ディスプレイでTFT-LCDとの競争が激化しつつあるアクティブ有機ELDについては国内勢から展示がなく、韓国勢も世界トップのSamsung Mobile Displayが出展自体を回避するなど停滞ムードが否めなかった。そうしたなか、存在感をみせたのがAU Optronicsで、コマーシャルレベルではスマートフォン用4型ワイドVGA(800×480画素)と4.3型QHD(560×960画素)パネルを展示。どちらもトップエミッション構造の低温Poly-Si TFT駆動パネルで、コントラストや輝度も良好だった。来年早々から量産し、有機ELD市場に再参入するとのこと。

 一方、次世代テクノロジーとして披露したのがIGZO-TFT駆動パネルで、4型QVGAフレキシブルパネルとテレビ用32型パネルを公開した。前者はサブストレートにプラスチックフィルムを使用し、IGZO-TFT製造時のプロセス温度をマックス220℃以下に抑制した。TFTはドライビングTFT、スイッチングTFT、ストレージキャパシタの2T1Cと最少構成。有機ELはコンベンショナルなボトムエミッション構造で、計8レイヤーの有機・無機ハイブリッドレイヤーで薄膜封止し、水蒸気透過率を10-6g/m2/dayクラスに抑えた。その薄さはわずか0.3oで、ブースでは写真9のようにフレキシブル性をアピール。曲率半径10oまで曲げられるという。ただ、表示クオリティはコントラストが低いなど不十分に感じた。


写真10 32型IGZO-TFT駆動有機ELD(AUO)


写真11 3.5型有機ELD(Chimei Innolux)


写真9 4型IGZO-TFT駆動有機ELD(AUO)

 後者はコンベンショナルなボトムエミッション構造で、独自のFMM(Fine Metal Mask)蒸着技術によってRGB発光層をパターニングしてフルHD化した。輝度は200cd/m2、色再現性はNTSC比72%と不足気味だが、コントラストが10万:1と高いため、画質はテレビ用として申し分ない出来栄え。さらに、他社のIGZO-TFT駆動FPDで目立つ欠陥もこのサイズでもみられなかった。

Chimei Innoluxもスマートフォン用有機ELDを披露

 台湾勢では、Chimei Innoluxもスマートフォン用3型/3.5型パネル(360×640画素)を展示した。こちらは白色ELとマイクロカラーフィルタ(CF)を用いてフルカラー化。消費電力を削減するため、ピクセルはホワイト(W)を加えたRGBW構成にした。輝度は350〜400cd/m2、コントラストは3万:1、色再現性はNTSC比87〜100%とまずまずだが、色が薄く感じられるなどクオリティはいまひとつ。さらに、このサイズで白色EL+CF方式という構造も一昔前のテクノロジーに映った。

IGZO-TFT駆動有機ELDはAN-IPSよりもベター?

 一方、LG Displayは今回有機ELDにはさほど力を入れておらず、コンベンショナルな低温Poly-Si TFT駆動パネルの出展はなかった。前記のように、AN-IPSを大々的にピーアールしていたことを考えると、モバイル機器用ディスプレイには有機ELDを積極的に採用しない方向かもしれない。そんななか、唯一展示したのが4.3型IGZO-TFT駆動パネルで、写真12のようにスマートフォンを想定したパネルを披露した。IGZO-TFTは信頼性の点で有利なエッチングストッパー付きボトムゲート構造を採用。a-Si TFTに比べ@低消費電力、A高解像度、B狭額縁、といったメリットがあるという。展示品は明欠陥が数個あったものの、解像性、コントラストとも申し分なく、再三アピールしていたAN-IPSよりハイクオリティにみえたのが若干皮肉にも感じた。


写真13 6型ガラス製パネル(右)とプラスチック製パネル(左)の薄さ比較

写真12 4.3型IGZO-TFT駆動有機ELD(LG Display)

プラスチックフィルムを用いて電子ペーパーを薄型軽量化

 電子ペーパーはやはり薄型化&フレキシブル化をアピールしたデモが相次いだ。まずはLG Displayで、プラスチックフィルム基板製のマイクロカプセル型電気泳動ディスプレイを披露した。キャリアガラス上にプラスチックフィルム製a-Si TFT駆動電気泳動ディスプレイを作製し、最後にキャリアガラスからリリースしたもので、展示したモノクロ6型XGAパネルは厚さ0.67o、重さ13.8gに薄型軽量化。コンベンショナルなガラス製パネルに比べ厚さを38%、重さを57%削減した。ブースでは写真13のようにガラス製パネルと並べて展示し、そのスマートぶりをアピールしていた。

有機TFT駆動でプラスチックフィルム製パネルをローラブル化

 これに対し、AU Optronicsは有機TFT駆動のローラブル電子ペーパーとして6型SVGAモノクロパネルを披露した。電子ペーパーデバイスは子会社である米SiPixのマイクロカップ型電気泳動ディスプレイ、有機TFTはマル秘組成の塗布型有機半導体材料を用いたトップコンタクト型を採用。キャリアモビリティは0.5cm2/V・s、Vthは1.5Vと電子ペーパーをドライブするのに十分な値を確保した。フレキシブル化に当たってはサブストレートにプラスチックフィルムを用いるとともに、パネル製造プロセス温度をマックス120℃に抑制した。パネルの反射率は33%、コントラストは6:1、階調は16で、写真14のように巻き取り装置によるローラブル性をアピール。ただ、欠陥が多数みられるなどクオリティは実用レベルとはいえなかった。

世界最大のカラーEWDも登場


写真15 9.7型カラーEWD(Samsung)


写真17 楽譜ボートへの電子ペーパー搭載例(E Ink)


写真14 6型フレキシブル電子ペーパーの湾曲性デモ(AUO)


写真16 6.1型カラー電子ペーパー搭載GPSガイド

 コンベンショナルなガラス基板製電子ペーパーでは、Samsung Electronicsがトピックスを提供。電圧印加によって水が着色オイルを押しのける現象を利用したエレクトロウェッティングディスプレイ(EWD)方式の9.7型カラーパネル(1024×384画素)を披露した。カラー化方式はCFを用いたとみられ、ピクセルはRGBW構成にした。カラーパネルでは世界最大サイズで、反射率は20%、色再現性はNTSC比10%、階調は64とのこと。同社は「LCDよりも10%消費電力が削減できる」とアピールしていたが、輝度をはじめとするクオリティを考えると、この10%減という数字はアドバンテージには映らず、むしろディスアドバンテージにさえ感じた。

電子ペーパーのアプリケーション開拓をさらに推進

 これら電子ペーパーモジュールメーカーに対し、マイクロカプセル型電気泳動ディスプレイの元祖E Inkはテクノロジーではなくアプリケーション開拓を全面にしたデモを敢行した。まず、前面基板上にマイクロCFを設けたカラーパネルでは6.1型XGAパネルを搭載したGPSガイドを展示。表示色は4096色で、欠陥フリーなど昨年に比べ完成度は一段とアップした印象。他方、モノクロパネルはニューアプリケーションとしてスノーボード、楽譜ボードなどを展示。ローパワーな電子ペーパーは他のFPDに比べさまざまなアプリケーションがあることを実感させた。

見えないガラスに潜在ポテンシャルの予感

 FPD用インフラでは、ガラス関連のデモが目を引いた。まずは各種展示会でお馴染みの日本電気硝子(NEG)で、世界最大の第11世代ガラス基板(3000×3320×t0.5o)、板厚0.1oの超薄型ガラスロール(1000o幅)、世界最大の152型PDP対応高歪点ガラスなどを展示。What's NEWは高精細ディスプレイ用ガラス基板と“見えないガラス”で、前者はアクティブ有機ELDや超高精細FPD向けとして730×920oガラス(t0.5o)を展示。最大の特徴は、熱収縮率を標準品の60ppmから30ppm(いずれも@500℃×1h)と1/2に低減したこと。また、基板端面からの発塵防止や有機物の除去などの処理によって清浄度を高めた。


写真18 普通のガラスと見えないガラス(日本電気硝子)

 後者はガラスの表裏に屈折率の異なる材料をnmオーダーで交互に計30層程度スパッタリング成膜して反射率を0.%以下とミニマム化したもので、この結果、光透過率は99.5%にアップ。見えないガラスとは絶妙のネーミングで、これだけ透明だとその存在感がほとんど感じられないほど。気になる用途はFPDの反射防止フィルムやメガネの映り込み防止などを想定している。

AGCも初めてロールガラスを披露

 これに対し、競合メーカーの旭硝子(AGC)は今回初めてロール状ガラス(1150o幅)を展示した。板厚はNEGと同じ0.1oで、従来品と同様、フロート法で成形した。ただ、やはりデモ的な意味合いが大きく、説明員も「引き合いはあるものの、現時点ではユーザーがロールガラスを使いこなせないため、量産採用は当面先だろう」と本音を述べていた。


写真20 ガラスペーストで封止したガラスセル(AGC)

写真19 板厚0.1oのフレキシブルガラス(AGC)

 同社は有機EL用インフラでも初めてレーザー封止用ガラスフリットペーストを紹介。PDP用ガラスペーストをモデファイしたものので、有機EL層のない基板にディスペンス塗布して仮焼成した後、両面基板を貼り合わせ、レーザービーム照射によってフリットペーストを局所加熱して封止する仕組み。当然のことながら、ガラス基板との密着性、気密性とも良好で、ブースではガラス基板を2枚貼り合わせた空セルを展示していた。

IGZO-TFTのソース/ドレイン電極にMo/Cu配線を

 配線材料では、ターゲットメーカーの立場から日立金属がIGZO-TFTのソース/ドレイン電極としてCu積層配線を提案した。周知のように、ピュアCuを配線材料に用いる場合、IGZO-TFTに限らず、活性層との密着性を確保するため、Cuを成膜する前にバリア層を設けるのが一般的である。同社は密着性の高いバリア膜としてTiとMoを比較。IGZO/バリア層/Cuの断面構造を観察したところ、Tiを用いるとTiが熱処理によってIGZOと反応し、さらにCu膜中に拡散することがわかった。これに対し、Moはそうした反応や拡散がみられず、写真21のように明瞭な界面が得られた。また、Ti/Cu配線は成膜直後や高温アニール時に比抵抗が上昇するのに対し、Mo/Cu配線は熱処理温度にほとんど依存せず、低抵抗を維持できる。つまり、ソース/ドレイン電極形成後の後工程でも高い耐熱性が得られると結論づけた。

マスクメーカーのSKエレクトロニクスがレジスト原盤事業に進出


写真23 フレキシブルPDMS版


写真22 厚膜レジスト原版

写真21 IGZO/Mo/Cuの断面SEM(日立金属)

 近年、実用化機運が高まっているプリンタブルエレクトロニクス向けインフラで新たなツールを提案したのが、フォトマスクメーカーのエスケーエレクトロニクス。フォトマスク製造技術を応用し、フォトレジスト原盤をPDMS(ポリジメチルシロキサン)版などの原版として供給するビジネスを模索しているもので、500×600oサイズの厚膜レジスト原盤を展示。石英基板に厚膜フォトレジストをL&S=3μm/5μmでパターニングしたもので、ミニマム2μmクラスまでのファインパターニングが可能。この厚膜レジスト原盤の有力用途が、マイクロコンタクトプリント法やナノインプリント法の版のひとつであるPDMS版。レジスト原盤にPDMSポリマーを充填し硬化させた後、リリースすると、レジスト原盤と逆パターンが形成されたPDMS版ができる仕組みで、ブースでは信越化学工業製のPDMSポリマーを使用して作製したロール状のPDMS版を展示。L&S=3μm/5μm、高さ5μmのファインパターンが形成することに成功した。 

反射型偏光板でLCDの効率を向上


図2 LCDモジュールの構造比較(帝人デュポンフィルム)


写真24 液晶テレビの比較デモ 左:通常偏光板使用パネル、右:反射型偏光板使用パネル

 LCDのキーマテリアルである偏光板では、帝人デュポンフィルムが画期的なニューマテリアルを紹介した。既存の吸収型偏光板に比べ光透過率を大幅に高めた反射型偏光板で、新開発のポリマーと超多層成膜技術によって光源からの光を吸収せず、反射させる特性を有する。図2のようにパネルの背面偏光板として用いる形で、この結果、パネルの消費電力が11%削減できる。また、消費電力が同じ場合、輝度が18%アップする。さらに、図2のように高価な輝度向上フィルムも不要になる。ブースではこの反射型偏光版を用いた液晶テレビを従来の吸収型偏光板を用いた液晶テレビとともに比較展示。表示特性も変わらないことを示した。さらに、リアルタイムで測定した消費電力は従来液晶テレビが45Wだったのに対し、新型液晶テレビは41Wとローパワーなことを実証してみせた。

導電粒子を下部に平面的に配置させたACFが登場


写真25 粒子配列型接続用ACFの構造(旭化成イーマテリアルズ)

 FPDモジュールインフラでは、旭化成イーマテリアルズが独自の粒子配列型接続用ACF「B-GAT(Ball Grid Array Tape for Fine Pitch Interconnection)」をアピールした。その名の示すように、バンプ(接続端子)に接触させて導通させる導電粒子をフィルムの下部に平面的に均一配列させたのが特徴。つまり、既存のACFのように導電粒子がランダムに3次元的に分散されているわけではない。このため、バンプへの熱圧着接続時に導電粒子が左右へ逃げてショートを発生させることがないほか、寄生容量を作ったりすることもないなど接続信頼性が大幅に向上する。もちろん、均一配置のため、接続ピッチのファイン化対応にも有利で、電極間ギャップ5μmまでの高密度実装が可能だという。なお、粒子配列方法はコンフィデンシャルだが、導電粒子や熱硬化エポキシ絶縁樹脂は既存のものが使用できるため、B-GAT自体の製造コストが大幅にアップすることはないようだ。

住友化学が高分子有機EL材料で孤軍奮闘


写真27 有機ELデザインパネル(住友化学)

写真26 マルチカラー有機ELパネル(住友化学)

 有機EL用インフラでは、今年も住友化学が高分子有機EL材料で孤軍奮闘。高分子発光層をRGBサブピクセルにパターニングした調光可変パネル(同社はマルチカラーパネルと命名)を展示した。サイズは2.8型(115×143画素)で、赤色と緑色は燐光材料、青色は蛍光材料を用いてインクジェットプリンティング法でパターニングした。いうまでもなく、ホワイトからRGB、さらにイエロー、ピンクまでさまざまな色が表示できる。輝度は500cd/m2で、開口率は52%とのこと。ブースでは、このパネルを49枚タイリングしたデザインパネルも披露。そのアイキャッチ効果は抜群だっただけに、有機EL照明デバイスを自ら製品化するのかと尋ねたところ、説明員は「今回の展示パネルはあくまでもデモで、照明デバイスを製品化する考えはない」と強調。つまり、高分子有機EL材料・インクをアピールするためのデモだという。しかし、肝心のプロダクトのデモはビデオでスペックを紹介するだけで、こうしたデモが販売促進に効果的かどうかについては疑問に感じた。

ガスバリアフィルムで有機ELを固体封止し水蒸気透過性を10-5g/m2/dayに低減


写真28 ガスバリアフィルムで固体封止した緑色有機EL(尾池工業)

 ここにきてフレキシブルディスプレイ&デバイス向けとして透明なガスバリアフィルムのアナウンスが相次いでいるが、今回インパクトのあるデモにみえたのが成膜メーカーの尾池工業。厚さ125μmのPETフィルムでガスバリア層をサンドイッチ化したガスバリアフィルムで、バリア層はスパッタ成膜レイヤーとウェット成膜レイヤーをハイブリッド化した。その水蒸気透過率は1×10-5g/m2/day(WVTR評価)で、全光透過率も80%以上を確保した。マックス1300o幅まで対応可能で、有機EL、電子ペーパー、有機太陽電池などに最適だという。とここまではよくみかける展示内容で、インパクトがあったのはこのガスバリアフィルムで固体封止した有機ELを展示したこと。デバイスの周囲に既存のエポキシ系シール材を塗布した後、このガスバリアフィルムをラミネートして封止したもので、写真28のように径39.6oの緑色有機ELを披露。輝度は1000cd/m2、駆動電圧は6Vで、厚さはわずか0.36oに過ぎない。ただ、他の固体封止方式や薄膜封止方式が実用化されるなか、既存の有機シール材を用いるというメソッドはそこからの不純物ガス侵入を考えるとハイガスバリアフィルムの特徴を十分生かしているとはいえず、旧来の提案に感じた。もちろん、単なるデモデバイスなのでそれでいいのかもしれないが・・・・・・。

3Mも有機・無機のハイブリッドガスバリアフィルムをPR

 一方、3Mもフレキシブルデバイスのサブストレートや固体封止サブストレートとして透明バリアフィルムを提案。PETフィルムに平滑化層を設けた後、ポリマーと無機酸化物を積層したもので、ポリマー層はモノマーを真空蒸着し電子ビーム照射によってポリマー化。無機酸化物はスパッタリング法によって成膜する。これら一連の成膜工程をRoll to Roll対応パイロットライン(300o幅)で連続処理する。その水蒸気透過率は上記のベース構成で10-3g/m2/dayだが、ポリマー・酸化物をさらに積層すればガスバリア性もそれに比例して向上する。

不活性な液状吸湿剤とアルミ箔で固体封止


写真29 液状吸湿剤(ランテクニカルサービス)

 FPD製造装置はまったくといっていいほどWhat's NEWがなかったが、有機EL用封止装置大手のランテクニカルサービスは新たな液状吸湿剤を用いたニュープロセスを披露した。カソードや有機EL層とまったく反応しない小松精練の液状吸湿剤「KFSレジン」を有機EL素子上に塗布した後、汎用のアルミ箔で固体封止するというアイデアで、不活性なKFSレジンは滴下または塗布するだけで硬化させる必要はない。よりローコストが求められる照明デバイスに適しており、吸湿キャパシティもコンベンショナルなシート状乾燥剤と同程度だという。なお、デバイスの周囲については既存のエポキシ系シール材をディスペンス塗布してシール層にするか、もしくは同社独自のイオンビーム接合によって封止する方向だ。

 


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。