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第64回応用物理学会春季学術講演会(3月14〜17日)


春季応用物理学会 IGZO-TFTのバイアスストレス安定性を改善する報告が相次ぐ

3月14〜17日、パシフィコ横浜で開かれた「第64回応用物理学会春季学術講演会」。エレクトロニクスデバイス関連のおもなトピックスをレポートする。

燐光有機ELに適したTADFホストを探索


図1 TADF材料の分子構造1)

 まず有機ELでは、NHK放送技術研究所が蛍光、燐光に次ぐ第三の発光メカニズムとされる熱活性化遅延蛍光(TADF)材料を燐光素子のホスト材料として用いた研究成果について報告した。

 発光ホストに用いたTADF材料はドナーとして複数のカルバゾール基、アクセプターとしてトリアジン基を有し、一重項励起状態-三重項励起状態間エネルギー差(ΔEST)が異なる2a、2b、2cの3種類である(図1)。これらの材料を用いてITOアノード/ホール注入層/α-NPDホール輸送層/4DBTP3Q/ホスト:Ir(mppy)/TPBi電子輸送層/LiFバッファ層/Alカソードという構成の素子を作製し、特性を比較した。

 表1にこれらを発光ホストとして用いた素子の駆動寿命と外部量子効率、またこれらをTADF発光ドーパントとして用いた素子の外部量子効率を示す。ホストとして用いた素子の特性、とくに寿命はホスト材料に大きく依存し、2cを用いた素子で最も良好な特性が得られ、次いで2b、2aという結果になった。一方、これらを発光ドーパントに用いた素子では2aが最も外部量子効率が高く、ホストとして用いる場合と逆の傾向が見られた。つまり、発光ドーパントに適したTADF材料が燐光ホストに適しているとは限らないことがわかった。

素子
項目
2a
2b
2c
TADFホストを用いた燐光素子の特性
LT50(hrs)
1,260
11,000
20,000
Max EQE(%)
19.5
20.0
21.5
TADFドーパントを用いた燐光素子の特性
Max EQE(%)
20.6
16.8
14.6

表1 試作デバイスの特性比較1)

 また、表1のように分子サイズが小さくΔESTが比較的大きい2cをホストに用いた素子で最も長い寿命が得られていることから、燐光素子の長寿命化に適しているのは分子サイズの小さいTADF材料と考えられる。

 さらに、TADF材料単膜で発光層を構成した素子の寿命を比較した結果、TADF材料自体の安定性に差が見られなかったことから、観測された寿命の差はホスト-ゲスト間のエネルギー移動速度の違いに起因すると考えられる。

誘導結合プラズマスパッタでハイモビリティIGZO-TFTを


図2 アズデポa-IGZO-TFTの電気特性2)

 酸化物TFTでは、成膜プロセスという観点から大阪大学とイー・エム・ディーの研究グループがプラズマ支援反応性スパッタリング法で酸化物半導体層を成膜したa-IGZO-TFTについて報告した。

 マグネトロン放電に重畳した誘導結合プラズマを独立に制御する仕組みで、高密度プラズマを真空成膜チャンバ内に均一にフローさせるという狙いがある。図2は基板温度150℃以下でIGZO膜をスパッタリング成膜したアズデポデバイスの電気特性で、42.2cm2/V・sと一般的なa-IGZO-TFTの4倍というハイモビリティが得られた。さらに信頼性を高めるために400℃でポストアニールしたデバイスを評価したところ、O2アニールデバイスは31.8cm2/V・s、N2アニールデバイスは37.1cm2/V・sとアズデポデバイスより若干低下したものの高いモビリティが得られた。N2アニールデバイスのモビリティがO2アニールデバイスより高くなったのは、In:Ga:Znの組成比がイニシャル値(ターゲット組成)の1:1:1よりもInリッチになったためと考えられる。

イオンドープ量でキャリア濃度、そしてバイアスストレス耐性を制御

 東北大学はa-IGZO膜にイオンドープすることによってキャリア濃度、さらに酸化物TFTにとって最大の課題であるバイアスストレス耐性を制御できる可能性を示した。

 実験では、まずa-IGZO膜をマグネトロンスパッタリング法によって石英基板上に成膜した。この際、Ga2O3ターゲットとIGZOターゲットを用いて共スパッタリング成膜し、図3のようにIn:Ga:Zn比をFilm A、Film B、Film Cと変化させた。図からもわかるように、Film A、Film B、Film Cの順でGa比率が多い。

 この後、Ga2O3のn型ドーパントとして知られるSiをイオン注入した。この際、ドーズ量を5×1012cm-3、1×1013cm-3の2種類にして、膜中のドーピング密度を7.5×1017cm-3と1.5×1018cm-3にした。その後、ウェット雰囲気(H2O/O2=100/900sccm)で400℃×1時間アニールして電気伝導度を測定した。


図4 電気伝導度の温度依存性3)


図3 a-IGZO膜のIn:Ga:Zn組成比3)

 図4は電気伝導度の温度依存性で、Film A、Film BともSiイオン注入すると電気伝導度が向上。とくに、Film BではSiドーズ量に応じて電気伝導度が上昇、すなわちキャリア濃度が上昇することがわかった。これに対し、GaリッチなFilm Cでは、Siイオン注入の有無に関わらず電気伝導度は10-5Scm-1以下と測定下限以下だった。

 また、イオン注入の最大の目的であるバイアストレス耐性については温度60℃で−30Vを4000秒印加して評価したところ、1.5×1018cm-3ドーズしたFilm BデバイスでVthシフトが大幅に抑制されることが確認できた。つまり、Siドーズ量によってVthシフト量を制御する可能性が示されたわけである。

フッ素ドープは塗布型IGZO-TFTにも有効

 他方、NHK放送技術研究所はコンベンショナルなスパッタリング成膜デバイスで有効性が指摘されているフッ素ドープ効果が塗布型酸化物TFTでも有効かどうかを評価した結果を報告した。


図5 a-IGZO-TFTのトランスファー特性4)

 実験では、硝酸インジウム水和物、硝酸ガリウム水和物、硝酸亜鉛水和物、フッ素添加剤を所定の割合で調整し、純水溶媒で溶解・撹拌してプリカーサ溶液を作製。フッ素添加剤には希フッ化水素酸(H2O+HF)を用いた。このプリカーサ溶液を熱酸化SiO2膜付きシリコンウェー基板上にスピンコートし、マックス300℃で焼成してフッ素添加IGZO膜(膜厚15nm)を成膜した。その後、フォトリソグラフィで酸化物半導体膜をアイランド化した後、マスクスルー蒸着によってMoソース/ドレイン電極を形成した。

 図5は試作デバイスのトランスファー特性で、キャリアモビリティはフッ素レスデバイスが1.8cm2/V・sだったのに対し、フッ素ドープデバイスでは4.7cm2/V・sに向上した。これは、酸素に対するフッ素置換によるキャリア生成や酸素欠損などの半導体膜中のトラップサイトの抑制に起因すると考えられる。また、Sファクターも0.48V/decadeから0.23V/decadeと改善された。

 さらに、研究グループが以前から報告している水素導入・酸化処理プロセスを成膜後に追加すると、マックス7cm2/V・sと塗布型IGZO-TFTとしてはきわめて高い値が得られた。ちなみに、バイアスストレス耐性(ゲート電圧+20V×3000秒)もΔVtが+3.1Vから+0.6Vと大きな改善がみられた。

有機半導体にレーザー照射して配向性を付与

 有機トランジスタ関連では、神戸大学と奈良先端科学技術大学院大学の研究グループがレーザーアニールによって有機半導体を配向制御したデバイスについて報告した。

 用いた有機半導体はベンゾポルフィセン(BPc)で、プリカーサ(BPc-Pre)を塗布した赤外線吸収性基板に赤外線レーザーを照射し走査することにより、プリカーサからBPcへ転化させるとともに分子配向させる。


図7 デバイス構造5)


図6 Bpcプリカーサ(a)とBpc(b)の分子構造5)

 今回の実験では、Au/Cr電極(チャネル長40μm)をパターニングした石英基板上にBPc-Pre膜をスピンコートし、基板裏面よりCO2レーザー(10.6μm)をAuギャップに対して垂直(BPc)または平行(BPc//)に照射して掃引した(図7)。写真1に裏面照射後の偏光顕微鏡像(クロスニコル条件下)を示す。BPc、BPc//とも45度回転させると明暗の逆転が観察され、Auギャップ間に配向したBPc結晶が形成された。このBPc配向膜上にゲート絶縁層パリレン(膜厚1μm)、Alゲート電極(膜厚50nm)を成膜してトップゲート・ボトムコンタクト型TFTを作製した。

 図8にVsd-Isd特性を示す。キャリアモビリティはBPcデバイスが2.2×10-2cm2/V・s、BPc//デバイスが8.8×10-2cm2/V・sと算出された。後者のモビリティが前者の約4倍になったのは、レーザー走査方向に異方的に大きな結晶が形成され、ギャップ内のグレインバウダリーが少なくなったためと考えられる。

 


図8 BPcデバイス(a)とBPc//デバイス(b)のVsd-Isd特性5)


写真1 BPc(a)、BPc//(b)の偏光顕微鏡像(クロスニコル条件下)5)

参考文献
1)岩崎ほか:リン光有機EL素子の長寿命化に適したTADFホスト材料の設計指針、第64回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、11-080(2017.3)
2)節原ほか:プラズマ支援反応性スパッタ製膜を用いた高移動度IGZO薄膜トランジスタの形成、第64回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、07-124(2017.3)
3)後藤ほか:Si イオン注入がIGZO 薄膜へ与える影響、第64回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、16-049(2017.3)
4)宮川ほか:微量フッ素添加による塗布型酸化物TFTの特性改善、第64回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、16-048(2017.3)
5)杉森ほか:レーザアニールによる熱変換有機薄膜の配向制御とTFT特性、第64回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、11-125(2017.3)

 


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

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