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有機エレクトロニクス研究会(5月24日)


有機エレクトロニクス研究会 イオン液体膜上にペンタセンを蒸着して単結晶化

 5月24日、NTT武蔵野開発センター(東京都武蔵野市)で電子情報通信学会主催による「有機エレクトロニクス研究会(OME2012-19-31)」が開かれた。テーマは“有機材料、作製・評価技術”で、有機分子の配向技術から有機膜成膜法、メタル電極印刷技術など幅広いカテゴリーで講演が繰り広げられた。ここでは、ユニークという観点から二つの講演をピックアップする。

 東京工業大学の松本祐司氏の研究グループは、イオン液体を利用したペンタセン有機半導体の単結晶化技術について発表した。周知のように、イオン液体は蒸気圧が非常に低く、大気中では加熱してもほとんど蒸発しない。その一方、減圧環境下では安定な液体状態を維持する反面、加熱すると容易に蒸発させることができる。このため、イオン液体中に低分子有機半導体を真空蒸着すると単結晶の有機半導体が得られる。しかし、有機TFTをはじめとするデバイスへの応用を考えると基板上に直接有機半導体を結晶化させる必要がある。


写真1 ITO/PEDOT:PSS基板上のイオン液体膜1)

 そこで、基板上にイオン液体膜を成膜し、その上にペンタセン有機半導体膜を成膜することにトライした。具体的には、まずイオン液体にCW発振型IRレーザーを照射してITO膜付き基板上にイオン液体膜を蒸着した。しかし、イオン液体は接触角10〜20度の液滴状になってしまい均一な膜にはならなかった。そこで、濡れ性を改善するため、ITO膜上にPEDOT:PSSを塗布した基板にイオン液体を成膜したところ、液滴状ではない均一な膜が得られた。写真1はITO/PEDOT:PSS上にスピンコートしたイオン液体(a)と真空蒸着したイオン液体(b)で、どちらも一様につながった膜が得られ、とくに真空蒸着膜ではレーザー光の緩衝縞が見られないほど均一な膜が形成できた。

 そこで、ITO/PEDOT:PSS/蒸着イオン液体膜上にペンタセン膜を真空蒸着した。(a)イオン液体膜レスで室温成膜、(b)イオン液体膜レスで加熱成膜(100℃)、(b)膜厚を厚くしたイオン液体膜を設けて加熱成膜(100℃)、(d)膜厚を薄くしたイオン液体膜を設けて加熱成膜(100℃)、という四つのサンプルを作製しペンタセンの結晶状態を評価した。その結果、イオン液体膜を設けるとペンタセンのグレインサイズが10μm以上と著しく増大し板状に成長した。また、(c)と(d)を比較すると、膜厚を100nm程度に薄くした(d)はさらに結晶性が向上しペンタセン分子が基板に沿って配向することがわかった。さらに興味深かったのは、蒸着後に有機溶剤で洗浄したところ、(c)ではペンタセン薄膜が消失してしまったのに対し、(d)ではペンタセン薄膜が消失しなかったこと。これは、(c)ではペンタセンが上部にただ乗っているだけに過ぎないのに対し、(d)ではペンタセンが基板上に密着していることを意味する。すなわち、ペンタセンの結晶成長を基板表面近傍のナノ空間に制限することにより基板上に直接ペンタセンを成長させることができると結論づけた。

石炭精製時の副産物を有機ELの発光層に


図2 石炭ピッチ溶液のPLスペクトル比較2)


図1 ソックスレー抽出器のイメージ2)

 一方、埼玉大学と中央大学の研究グループは“石炭ピッチを用いた有機EL”というユニークな研究成果を報告した。石炭ピッチとはエレクトロニクス分野では聞き慣れない言葉で、石炭精製時に副生成物として出る縮合多還芳香族の集合体である。その成分は発光物質、非発光物質、タールなどの不純物からなる。つまり、このうち発光物質だけを抽出できれば、有機ELデバイスの発光材料として利用することができる。いうまでもなく、これは有機発光材料の製造コストを劇的に低減できるとともに、本来廃棄する石炭ピッチを有効利用することによりエコロジーに資するというアドバンテージがある。

 そこで、石炭ピッチに含まれる縮合多還芳香族から有機EL発光材料に適した有機分子を効率的に分離・抽出することにトライした。図1に抽出に用いたソックスレー抽出器のイメージを示す。粉砕した石炭ピッチを抽出器内に入れ、系内をArガスで置換した後、各種有機溶媒を加えて一定時間還流しナスフラスコに移した。最後に、固体成分を希釈することにより石炭ピッチ溶液の濃度を調整した。

 そして、この石炭ピッチ溶液を用いて有機EL素子を作製した。素子はITOアノード/PEDOT:PSSホール注入層/石炭ピッチ発光層/LiFバッファ層/Alカソードという構成で、石炭ピッチ溶液は回転数2000rpm、1分間という条件でスピンコートした。

 図2は石炭ピッチ溶液のPLスペクトルで、抽出に用いた有機溶媒によってPLピークは大きく異なり429nmから550nmの範囲でシフトした。いうまでもなく、これは抽出に用いた有機溶媒によって抽出された有機分子成分が異なることを意味する。図3は素子特性の比較で、シクロヘキサン溶媒を用いた素子は電流密度および輝度の立ち上がり電圧がもっとも低かった反面、最大輝度は0.5cd/m2にとどまった。他方、THF(テトラヒドロフラン)を用いた場合、発光開始電圧こそ高かったが、24V印加時で最大輝度22.4cd/m2が得られた。


図3 石炭ピッチを発光層に用いた有機EL素子の特性2)
  (a)電流密度-電圧特性 (b)輝度-電圧特性

 いうまでもなく石炭ピッチを用いた有機ELの作製は世界初であり、まだ研究初歩段階ということもあり特性的にはまだ不十分だが、今後のエンハンス次第ではディスプレイ以外のローコストな発光デバイス向けとして実用化される可能性を感じさせた。

参考文献
1)松本ほか:イオン液体膜を介したITO基板上への板状ペンタセン薄膜の形成、有機エレクトロニクス研究会(OME2012-19-31)資料、pp.13-16(2012.5)
2)木村ほか:クロマトグラフィで分離した石炭ピッチを用いた有機EL、有機エレクトロニクス研究会(OME2012-19-31)資料、pp.31-34(2012.5)

 

 

 

 


REMARK
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2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。