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IDW'10〜電子ペーパー編


IDW'10〜電子ペーパー編 次世代技術の焦点はやはりフルカラー化に

BMとブラックオイルで透過型EWDのコントラストを改善


図1 フルカラーEWDの構造と動作原理1)


図2 フルカラーEWDの断面構造2)

 エレクトロウェッティングディスプレイでは、Industrial Technology Research InstituteとWintekがTFT基板上にカラーフィルター(CF)を形成したカラーフィルター・オン・アレイ(COA)方式透過型フルカラーパネルを初めて試作した。バックライトを用いる透過型フルカラーパネルはいうまでもなく既存の電子ペーパーデバイスではなく、TFT-LCDのリプレースを目指したもので、ローパワーのモバイル機器向けに最適としている。

 パネルの構造と動作イメージは図1の通りで、電圧OFF時はブラックオイルが撥水性絶縁層を覆い黒表示となる。一方、電圧を印加するとブラックオイルが親水性リブの側面に集まり、CFによって外光が反射して白表示となる。


写真1 BMパターンの顕微鏡像1)

 カラー化方式としてCOAを選択したのは、いうまでもなくTFTとCFパターンの精密アライメントが容易なため。ゲート、ゲート絶縁膜、a-Si/n+a-Si、ソース/ドレイン、パッシベーションをコンベンショナルなプロセスで形成した後、Al-Nd膜をスパッタリング成膜し反射層を設けた。この後、フォトリソでCOAを形成。続いて、COAの表面平滑性を高めるため、透明フォトレジストを厚膜で塗布してプラナリゼーションレイヤーを形成した。この結果、プラナリゼーション層の表面粗さを2%以内、Ra=40nm以下に抑制できた。

 この後のプロセスフローは、COA付きTFTガラス基板上に絶縁膜をプラズマCVD法で成膜。次に、ブラックレジストを塗布しフォトリソでパターニングしてブラックマトリクス(BM)を形成する。BMには透明なリブによってバックライトからの光漏れを抑制する機能があり、BMは後述するリブの直下に配置するようパターニングする。写真2のように線幅は12.5μm、膜厚は1μmで、OD値は2である。この後、ウェットコート法で撥水層を形成する。続いて、フォトレジストの濡れ性と密着性を高めるため表面処理によって親水性に改質。親水性フォトレジストを塗布し、フォトリソでパターニングして高さ4μmの親水性リブを形成する。次にセル内部にブラックオイル、続いて水を注入。最後に、ITO電極付き前面ガラス基板と貼り合わせる仕組み。


写真2 ブラックオイルの透過性比較(上がピュアドデカンオイル、下がフラックス添加ドデカンオイル)1)


図3 ブラックオイルの透過性比較1)

 ところで、一般的にカラーEWDでは色素をドープしたアルカンオイルまたはシリコンオイルを用いる。しかしながら、ほとんどの色素添加オイルは非極性溶媒には溶解しない。研究グループが以前用いたブラックオイルは数種類の色素をドープしたもので、膜厚4μmで光透過率は11%、OD値は0.95だった。今回は色素の溶解性を高めるため、ドデカンベース溶媒を用いた。水に溶解せず、極性が小さく、非極性溶媒よりも粘度が低いフラックスを用いたところ、さまざまな色素を溶媒に溶解させることができた。この結果、図3のように光透過率が低下し、OD値も0.95から1.2に上昇。写真2のように従来のピュアドデカン溶媒オイルは背面が透けて見えるのに対し、今回は背面が見えないようになった。

 試作した3.5型パネル(320×480画素)のサブピクセルサイズは155×155μmで、白色色度を高めるため、CFはRGBにホワイト(W)を加えたRGBW構成を採用。ピクセルの開口率は75%だった。

反射&発光兼用のデュアルモードエレクトロクロミックディスプレイも

 電気化学的な電圧印加による酸化還元反応を利用してエレクトロクロミック(EC)材料を透明から発色させるエレクトロクロミックディスプレイでは、千葉大学がECとエレクトロクロミックルミネセンス(ECL)を利用した反射&発光兼用ディスプレイを開発したことを報告した。屋外では反射型ディスプレイ、屋内では自発光ディスプレイとして使用でき、今後、モバイル機器向けとして実用化が期待される。

 ECDは外光反射を用いる反射型電子ペーパーとしても認識されているが、電気化学的な反応によってEC材料がアノード〜カソード間で生成されるカチオンラジカルとアニオンラジカルの衝突によって励起されて自発光するECL現象も観察される。ELCデバイスは直流電圧でも交流電圧でも発光するが、前者ではレスポンス速度が1秒程度と遅い。これは、両電極から生成されるカチオンラジカルとアニオンラジカルが拡散した後で発光するというメカニズムによる。これに対し、AC駆動では電極の極性が変化するため、一方の電極からカチオンラジカルとアニオンラジカルが生成される。この結果、レスポンス速度はmsオーダーとなる。


図4 デバイス構造と動作原理3)

図5 反射モードの吸収スペクトルと発光モードの発光強度3)

 こうした特性の違いを応用し、図4のような反射&発光兼用のデュアルモードパネルを作製した。具体的には、EC材料は反射層として一方の電極に固定する一方、ECL材料は発光層としてもう一方の電極に吸着させる。どちらのモードにするかは直流電圧もしくは交流電圧を印加することによって制御する。つまり、反射モードでは図4-(a)のようにDC電圧を印加する。その結果、EC材料が反射層内で酸化反応または還元反応によって色が変化する。このとき、ECL材料は発光層内でカチオンラジカルまたはアニオンラジカルのどちらかしか発生しないため発光しない。一方、発光モードでは図4-(b)のようにAC電圧を用いる。この結果、発光層内でカチオンラジカルとアニオンラジカルが発生して発光する。この際、反射層内では酸化還元反応が超高速で連続的に発生するため、色はほとんど変化しない。このため、AC電圧では発光現象しか観察されない。つまり、シンプル構造ながら印加電圧を変えるだけでデュアルモードディスプレイが実現する。

 今回の実験ではEC材料に溶剤可溶性PET誘導体、ECL材料にRu(bpy)32+錯体を使用。DMSO(ジメチルスルホキシド)とTHF(テトラヒドロフラン)溶媒に溶解させた。支持電解質にはTBAP(テトラブチルアンモニウムパークロレート)、ゲル電解質のホストポリマーにはPVB(ポリビニルブチラル)、架橋剤とイオン交換膜にはヘキサメチレンジイソシアネートベースのポリイソシアネートを用いた。まず、THF溶媒にPETとポリイソシアネートを1:2の比率で溶解。ITO膜付きガラス基板上にPET(10wt%)溶液をスピンコートし、100℃×1時間加熱し架橋させてEC層を形成した。他方、もうひとつのITO電極付きガラス基板はRu(bpy)3Cl2水溶液中に12時間浸漬しECL材料用電極に改質した。そして、高さ300μmのスペーサを介して両面基板を貼り合わせゲル電解質を注入した。


(a)イニシャル状態

(b)反射モード

(c)発光モード
写真3 表示状態の比較3)

 図5はEC電極にDC電圧−4Vを印加した際の光吸収スペクトルで、写真3-(b)のようにEC層は還元反応によって透明ライクな色からマゼンダ(吸収ピーク530nm)に変化する。この際、ECL材料による発光は発光層内におけるRu錯体の酸化反応によって観察されない。つまり、前記のメカニズムからDC電圧を印加した場合は反射モードのみが機能する。

 一方、周波数50HzでAC電圧を4V印加した際の発光スペクトルは図5のようになり、写真3-(c)のようにRu錯体からの発光が観察される。この際、EC層は前記のように酸化反応と還元反応を瞬時に繰り返すため色の変化は起こらない。言い換えると、EC層は透明からマゼンダ、マゼンダから透明と高速で発色・消色を繰り返す。この際、50Hz駆動でのハーフサイクル時間はわずか0.01秒に過ぎない。つまり、ECの反応時間に対しあまりにも高速なため人間には色の変化が認識できないわけである。

フルカラーChLCDでは第3のパネルデザインが


図7 単色パネルの反射スペクトル比較4)

図6 パネルの構造例4)

 他の電子ペーパーに比べフルカラー化が容易なコレステリックLCD(Ch-LCD)ではIndustrial Technology Research Instituteが新たなフルカラー化方法を発表した。

 周知のように、Ch-LCDのカラー化方法はRGBそれぞれのCh-LC層を積層するスタッキングレイヤー型と、ピクセルをRGBの3サブピクセルに3分割するシングルレイヤー型に大別されるが、今回は双方の特徴を取り入れた新たなパネル構造を考案した。

 図6にその断面図を示す。上段のカラーレイヤーはバンクによって平面方向に二つのサブピクセルにセパレートし、それぞれ異なるCh-LCを注入する一方、下段のモノクロレイヤーには二つのサブピクセルに同一のCh-LCを注入する。ここではトップレイヤーにRとGのCh-LC、ボトムレイヤーにBのChLCを注入した。研究グループはこのデザインを“RG/B配列”と表現。この方式ではピクセルを四つのサブピクセルに分割し、それぞれに異なる電圧を印加することによってフルカラー化する。


図9 白色ポイントの比較4)

図8 フルカラーパネルの反射スペクトル比較4)

 その特徴だが、まずシングルレイヤーパネルと比べると高精細化が容易で、歩留まりも高いなど製造も容易になる。また、コンベンショナルなスタッキングレイヤーパネルと比べると駆動制御が三つから二つに減る結果、モジュール重量と製造コストを削減することができる。

 図7はプレーナー(反射)状態とフォーカルコニック(透過)状態の反射率を示したもので、選択反射する中心波長はRが600nm、Gが520nm、Bが425nmだった。また、フォーカルコニック状態の反射率はRGBともほぼ同じだった。

 パネルデザインを最適化するため、カラーレイヤー/モノクロレイヤーの構成をBG/R、RB/G、RG/Bにした3種類のサンプルを作製。また、リファレンスとしてRGBスタッキングレイヤーパネルとシングルレイヤーパネルも試作した。図8にそれぞれの反射スペクトルを示す。RGBスタッキングレイヤーパネルは反射率が最大だったものの、二つのピークスペクトルが観察された。これは白色を表示する際に大きな影響を及ぼす。すなわち、多大なドライブ補正技術が必要になり、実用的には反射ロスを引き起こすことである。これに対し、今回の新構造パネルはボトム側のモノクロレイヤーの開口率がカラーレイヤーの2倍である。このことは光学ロスを相殺することを意味する。また、そのスペクトルは可視光領域においてブロードでユニフォームなことがわかる。これは、いうまでもなく白色特性を高めやすいことを意味する。


図10 色再現性の比較4)

 図9にドライブ補正技術を用いない場合の白色ポイントの比較を示す。RGBスタッキングレイヤーパネルはトップレイヤーの反射率が高く光学ロスが小さいため、他のパネルに比べ白色ポイントが標準ポイントからかなりずれている。これに対し、ニュー構造パネルはいずれの配列とも他のパネルに比べずれが小さかった。図10はCIE色度の比較で、ニュー構造パネルは他のパネルに比べわずかながら色純度も高いことがわかる。

 表1は反射率、白色色度、色再現性(NTSC比)を比較したもので、RG/Rデザインパネルの反射率はシングルレイヤーパネルの1.77倍だった。これは、RGBスタッキングレイヤーパネルにほぼ匹敵する。一方、白色ポイントからの偏差はRG/Bパネルが0.0117ともっとも小さかった。さらに、BG/RパネルはNTSC比8.49%とマックスの色再現性を示した。

特性
B/G/R
BG/R
BR/G
RG/B
RGB
R0
1.98
1.77
1.61
1.60
1.00
d(x, y)
0.0412
0.0225
0.0205
0.0177
0.0236
NTSC比
5.46
8.49
7.42%
6.91%
5.09
表1 パネルの特性比較4)

参考文献
1)Hsin-Hung Lee, et al.:Novel Development of AM Electrowetting Display with Color Filter on TFT-Array, IDW'10, pp.2141-2142(2010.12)
2)Cheng-Yi Chen, et al.:A 3.5-ins Transflective Color Active Matrix Electrowetting Display, IDW'10, pp.441-442(2010.12)
3)Yuichi Watanabe, et al.:Novel Imaging Device with Reflective and Emissive Mode Driven by Electrochemical Reaction, IDW'10, pp.1523-1525(2010.12)
4)Cheng-Hsi Hsieh, et al.:A Novel Structure of Full Color Cholesteric LCD, IDW'10, pp.571-574(2010.12)


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。