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第13回光技術シンポジウム(2月25日)


「第13回光技術シンポジウム 有機デバイス」 ソニーが有機ELテレビからの撤退を否定
産総研はLCDバックライト用偏光有機EL面光源の研究成果を報告

 2月25日、都内で産業技術総合研究所と光産業技術振興協会の主催による「第13回光技術シンポジウム 有機デバイス」が開かれた。産総研が有機デバイスの研究成果を報告するシンポジウムだが、ソニーの有機EL開発責任者が有機ELディスプレイについて特別講演を行い、有機ELDのポテンシャルを改めてピーアールした。ソニーを含め2件の講演をピックアップする。


写真1 フレキシブル有機TFT駆動有機ELD(ソニー)

 ソニーの占部哲夫氏(業務執行役員SVPコアデバイス開発本部ディスプレイデバイス開発部門長)は「有機ELディスプレイ開発の現状と展望」と題して講演。本題に入る前に、“今春で11型有機ELテレビ「XEL-1」の生産を打ち切る”との一部報道に対し、「この件だけを聞きたい人もいるかもしれないので(笑)、コメントをせざるを得ない」と語り、簡単にその経緯を説明した。

 それによると、「今回の一部報道はソニーから発表したわけではない。XEL-1の生産を終了するのは事実だが、イコール有機ELテレビ市場からの撤退ではなく、有機ELを重要なディスプレイデバイスと考えていることに変わりない。もちろん、有機ELテレビは現在も開発中」と言明。後継モデルが開発でき次第、リリースすることを示唆した。

 上記のイントロダクション後、本題に入ったが、タイトルから予想できるように旧知の話が大半を占め、特別講演ということもあり新鮮味に欠けた印象は否めかなった。そんななか、What's NEWに映ったのがXEL-1の寿命に関する言及。XEL-1は世界初の有機ELテレビとして07年12月にリリース。一部調査会社からテレビとして寿命に疑問が残ると指摘されていたが、今回、これを完全に否定。すでに点灯開始から1万1000時間以上経過しているが、若干の輝度低下はあるものの、指摘されていた焼き付きは一切なく、テレビとして問題ないレベルとコメント。輝度ユニフォミティも初期とほとんど変わらず、寿命という問題はないと強調した。

 気になる今後については明確なロードマップを示さなかったが、同社は1月に米国で開かれた「CES(Consumer Electronics Show)2010」に新開発の24.5型有機テレビを展示。時分割方式+眼鏡シャッターによる3D表示をデモし大好評だったため、近い将来、次世代有機ELテレビを製品化することを予感させた。その一方で、有機ELDのアドバンテージをフルに活かせるフレキシブルディスプレイでは巻き取りタイプが理想と指摘。それには有機TFT駆動が最適で、なかでもオールプリンティングプロセスで生産したいとコメント。今後、塗布型有機TFT駆動有機ELDの開発を加速させる考えを示した。

青色の偏光有機EL発光を白色化

 産総研の谷垣宣孝氏は、配向薄膜作製技術を用いた偏光有機ELの最新成果を報告した。


図2 偏光ELのスペクトル2))


図3 蒸気輸送法のイメージ2)


図1 摩擦転写法のイメージ2)

 ポリマーを膜化して配向させるため、まず摩擦転写法と名づけたユニークな成膜&配向方法を考案した。図1のように、固体のポリマーペレットを加熱した基板に加圧しながら掃引する仕組みで、主鎖を配向させながら成膜することができる。とくに溶媒に不要・難溶なポリマーに有効で、すでにPPP(ポリフェニレン)、PT(ポリチオフェン)、ポリアニリン、PPV(ポリパラフェニレンビニレン)、PF(ポリフルオレン)といった共役系ポリマーに適用できることを確認している。

 その有望用途として開発したのが偏光有機EL。摩擦転写によって配向させた高分子発光膜から偏光を発光させる仕組みで、偏光光が必要なLCDのバックライト光源に用いると、バックライト側の偏光板や導光板が不要になり、光利用効率もアップする。まずITOアノード/配向PFO発光層/BCP電子輸送層&ホール阻止層/LiFバッファ層/Alカソードという高分子青色素子を作製したところ、ELスペクトルにおける平行/垂直成分の積分強度比(偏光比)が31という偏光が得られた。その際の特性は輝度300cd/m2(@25V)、発光開始電圧16.5V、効率0.3cd/A(@200cd/m2)だった。

 いうまでもなくLCDバックライト用途では白色光が求められる。そこで、上記の青色発光を白色発光化することにトライした。真空チャンバ内で色素を昇華させてドープする蒸気輸送法(図3)を用いることにより、摩擦転写法で成膜したPFO膜に色素をドープした。有機ELの赤色色素として知られるDCMを0.8wt%ドープしたところ、発光は青色から白色に近いライトブルーに変化した。参考のためPFOとDCMをあらかじめ混合した溶液をスピンコートした素子を作製したところ、電流密度、輝度とも蒸気輸送法で作製した素子の方が高かった。

 しかし、摩擦転写法+蒸気輸送法で作製した擬似白色光はDCM色素が配向しないため、偏光が得られなかった。そこで、色素分子も偏光させることにした。最初にDCMにトライしたが、配向できなかったため、オリゴチオフェンモノマー(6T)を用いたところ、摩擦転写で配向したPFOの主鎖に連なる形で配向させることに成功。図4のように蒸気輸送法で6Tをドープした後、200℃×24時間アニールしたところ、偏光比17という擬似白色発光が得られた。


図4 白色化方法とデバイスのPLスペクトル2)

参考文献
1)占部:有機ELディスプレイ開発の現状と展望、第13回光技術シンポジウム資料、pp.1-2(2010.2)
2)谷垣:高分子配向膜作成技術とそれを用いた偏光EL素子、第13回光技術シンポジウム資料、pp.3-20(2010.2)

 

 

 

 

REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。