STELLA通信は潟Xテラ・コーポレーションが運営しています。

イノーベーション・ジャパン2009(9月16〜18日)


イノーベーション・ジャパン2009 室温焼結するナノAgに脚光
CNT-TFTでもユニークなプロポーザルが相次ぐ

9月16〜18日、東京国際フォーラムで開かれた「イノーベーション・ジャパン2009」。ここにきて認知されつつあるプリンタブルエレクトロニクス関連では室温成膜可能なCNT(カーボンナノチューブ)や室温焼結するナノAgインクが注目を集めた。独断と偏見でトピックスをレポートする。

 まず有機EL関連では、埼玉大学 理工工学研究科の福田武司助教授の研究グループが静電塗布法を用いて作製した高分子有機ELを発表した。


図2 ノズルディスタンスと膜厚の関係

図1 静電塗布法のイメージ

 図1のように、静電塗布法は噴霧ノズル〜基板間に高電圧を印加しながら塗布材料をスプレー照射する。塗布液に含まれる有機溶媒は基板に到達する前に揮発するため、真空成膜のようなハイピュリティな成膜が可能で、基本的に常圧・常温で処理可能というメリットがある。とくに有効なのがウェットプロセスを多用して多層デバイスを作製するケースで、成膜・塗布時に有機溶媒による下地のダメージを心配する必要がない。

 写真1はPEDOT/PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸)ポリマー「エノコート」を静電塗布した際の電子顕微鏡写真で、印加電圧を10kVにするとRms=12.8nmとスピンコート膜に匹敵するフラットサーフェースが得られる。図2はノズル〜基板間のディスタンスと塗布膜厚の関係で、ノズルディスタンスが長くなるにともなって成膜レートが低下する。その一方、ノズルディスタンスが長いほど噴霧中に分裂を繰り返すため粒子が微細化される。つまり、材料利用率と成膜レートはトレードオフの関係になる。ただし、特筆されるのは粒子が付着するのは電極上だけという点。すなわち、あらかじめ高電圧を印加する電極をパターニングしておけば所望の位置にだけ粒子を自己整合的に付着させることができる。もちろん、用いる有機溶媒には制約がなく、主材料が有機溶媒に溶解さえすればいい。


写真1 エノコート成膜時の印加電圧依存性

 今回、高分子有機ELに適用するに当たってまず下地に対するダメージがないかどうかを調べた。ガラス基板上に透明電極を真空成膜した後、PFOとF8BTそれぞれを静電塗布しPLスペクトルを評価したところ、F8BTとPFOからの青色&緑色の2波長が観測された。これに対し、リファレンスとして作製したF8BTとPFOのスピンコート混合デバイスではF8BTに由来するピークスペクトルが消え、PFOからの発光が観測された。いうまでもなく、これらは静電塗布法で積層した際にも材料本来の特性が維持され明確な界面が形成されるためと考えられる。

 そこで、ガラス基板上にメタルカソード/電子注入層/電子輸送層/高分子発光層/導電性ポリマーアノードを積層して素子を作製した。ここでメタルアノードと電子注入層は真空蒸着法、電子輸送層と高分子発光層はスピンコート法、導電性ポリマーアノードは静電塗布法でエノコートを成膜した。この結果、高分子発光材料本来の青色発光が得られ、静電塗布法によって発光層がダメージを受けていないことが確認できた。

単一材料で白色発光が

 一方、和歌山大学 精密物質学科の大須賀秀次准教授の研究グループは独自開発したユニークな高分子発光材料をアピールした。


図3 新たに合成した高分子発光材料の合成と分子構造

 縮環した芳香族複素環化合物をベースに合成した高分子発光材料で、合成法と分子構造は図3の通り。最大の特徴は455nm付近にピークスペクトルを持ちながら、555nm付近にわずかながらも第2ピークスペクトルがあること。つまり、単層で青色と黄色による2波長の白色発光が得られる。さらに、555nm付近の黄色発光は従来の一重項エネルギーによる蛍光発光ではなく、三重項エネルギーにもとづく燐光発光と推定されること。本来、蛍光材料ながら室温で燐光が観測されるメカニズムは不明だが、ITOアノード/PEDOT:PSSホール注入層/高分子発光層/Caバッファ層/Alカソード素子では電圧8Vから白色発光。13Vまでは電圧上昇にともなって白色発光輝度が上昇するが、14Vになると黄色発光が消滅し青色発光に変化するという。まだ発光効率はかなり低く実用化にはほど遠いが、純粋な単一材料で白色光が得られるため、今後、分子構造や素子特性の改善が期待される。

 大須賀准教授の研究グループは、縮環した芳香族複素環化合物の開発成果として有機半導体材料も報告した。


図4 オレフィン・ダイマーの合成と分子構造

 その代表が図4のオレフィン・ダイマーで、代表的なp型有機半導体材料として知られるペンタセンに比べ大気中における安定性がきわめて高いのが特徴。ただ、n+ シリコン/SiO2+PMMAゲート絶縁膜/有機半導体層/Auソース・ドレインという構成の試作デバイスではキャリアモビリティが0.016cm2/V・secと低かった。これはオレフィン・ダイマーの配向性が不十分なため。そこで、表面エネルギーがほぼ同じで結晶性が高いペンタセンを結晶性制御層としてゲート絶縁膜上に膜厚3nmで蒸着した後、オレフィン・ダイマーを蒸着した。その結果、板状に配向したグレインが得られ結晶性が向上。モビリティも1.2cm2/V・secと100倍にアップした。なお、ON/OFF電流レシオは9×104だったが、Vthは−49〜65Vとかなり高いのが課題となっている。

半導体性SWNTを基板上にダイレクト成膜

 フレキシブルデバイス向けとして注目されるCNTトランジスタでは、名古屋大学工学研究科の大野雄高准教授の研究グループが基板上にSWNT(シングルウォールナノチューブ)をダイレクト成膜・成長させる技術を報告した。


写真3 PETフィルム上に作製したCNT-TFT

 ひとつは浮遊触媒法と名づけた低温プロセス。まずCo触媒ガスとFeCp2原料ガスを常圧CVD装置内に導入し、800〜1000℃で加熱してSWNTを合成する。ここまでは一般的な熱CVD法と同じである。異なるのは、装置の下部にエアロゾルノズルを設けた点で、ここから合成したSWNTを霧状に噴霧して基板に到達させる仕組み。基板は室温でよく、径1.5〜2nm、長さ数μm〜数十μmのSWNTが得られる。写真3はPETフィルム上に作製したCNT-TFTで、キャリアモビリティは1cm2/V・sec、ON/OFF電流レシオは104、Vthは−0.1Vだった。

 もうひとつは、半導体性SWNTを基板上にダイレクト成膜・成長させる技術。一般的なプラズマCVD装置内に数oピッチで孔を設けたグリッド電極を挿入したもので、装置の下部に配置した基板上にSWNTが付着する仕組み。この際、驚異的なのは成膜されたSWNTのうち約95%が半導体性SWNTという点。つまり、金属性SWNTはわずか5%しか含まれていない。メカニズムについてはまだ明確に解明できていないが、@CH4:H2ガスによって生成されたSWNTのうち、金属性SWNTはプラズマによってCNT構造が壊される、Aグリッド電極によってSWNT内に欠陥が導入され金属性SWNTが半導体性SWNTへ変化する、といった理由を想定している。ちなみに、こちらは基板を600℃程度に加熱する必要がある。実際にシリコン基板上にCNT-TFT(チャネル長10μm)を作製したところ、モビリティは35cm2/V・secと高い値が得られた。ただし、金属性SWNTが5%程度残っているため、ON/OFF電流レシオはわずか13と低かった。このため、プロセス条件などを最適化し半導体SWNTの合成比率を100%にするのがファイナルターゲットとなっている。

常温焼結するほか、安価で大量合成できるナノAgとは


図5 シュウ酸架橋銀オレイルアミン錯体の自己熱分解法

図6 ナノ粒子→インク→塗布膜と変化する様子

 プリンタブルエレクトロニクス関連で最大の注目を集めたのが低温焼結型Ag粒子。発表したのは山形大学 物質生命科学科の坂本政臣教授の研究グループで、室温でも焼結することをアピールした。

 独自開発したのは、シュウ酸架橋銀オレイルアミン錯体の自己熱分解法。分子構造と合成法は図5の通りで、平均粒径11nm程度の独立分散型Ag粒子が得られる。最大の特徴は、一般的な液相法と違い、有機溶媒レスでほぼ100%の収率で大量合成できること。また、Ag粒子の表面を修飾する樹脂分子の使用量も少ない。もちろん、濃度を40wt%と高くしても室温で保存できる。  

  図6はナノ粒子から導電膜へ変化する過程を示したもので、有機溶媒に溶解させた独立分散インクを基板にスピンコートすると、当初は青色光沢が観察される。この後、室温で放置すると保護膜樹脂が揮発する。この結果、基板にナノAgが固着し銀光沢膜になる。Agグレインは室温放置によって増大し、さらに100℃程度で低温加熱すると、いっそうグレインサイズが増大するとともに均一化する。この結果、ラージサブストレートでもユニフォミティの高いAg膜が形成できる。気になる導電性については、室温焼結では20Ω/□と不十分だが、120℃でアニール処理すると1Ω/□クラスまで低抵抗化することができる。また、サブストレートに対する密着性もPETフィルム、ガラスとも確認済みで、手で擦っても剥がれることはない。

 いうまでもなく、対象となる工法はスピンコート法系とインクジェットプリンティング法で、バインダーなどを添加する必要があるスクリーン印刷法に適用するのは当面困難といえる。



REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。