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秋季応用物理学会(9月18〜21日)


秋季応用物理学会 Geトランジスタやグラフェン選択成長プロセスに新鮮味が

9月18〜21日、北海道大学札幌キャンパスで開かれた「第80回応用物理学会秋季学術講演会」。低温poly-Si TFT-LCD、有機EL、有機TFTなどの分野から注目講演を予稿集ベースでピックアップする。

ドットマスク転写を用いたSLA法でTFT特性ばらつきを低減

 まず低温poly-Si TFT-LCD関連では九州大学、ブイ・テクノロジー、東北大学の研究グループがMicro Lens Array(MLA)を用いたSelective Laser Annealing(SLA)法によるTFT特性改良成果を報告した。一般的にSLA法において固定光学系でレーザー照射した場合、コンベンショナルなスキャン方式に比べ結晶粒界が不均一となり、VthやキャリアモビリティといったTFT特性が不安定になる。そこで、図1のような縮小投影光学系を用いたドットマスク転写による結晶成長制御技術を用いてチャネル内に均一な正方形の結晶粒を形成することにした。


図2 VG-ID特性1) (a)マスクなし処理 (b)ドットマスク転写処理


図1 SLA装置の構造1)


 SLAに用いたのはギガフォトン製KrFエキシマレーザーで、波長は248nm、パルスの半値全幅は約15ns。開口数0.36の無限補正対物レンズ(20倍)を用いて150×150μm領域にドットマスクを縮小投影した。

 プロセスフローは、まずa-Siプリカーサ膜を膜厚100nmで低圧化学気相成長により石英基板上に成膜。上記のエキシマレーザープロセスによりa-Si膜を多結晶化しパターニングした後、SiO2ゲート絶縁膜(膜厚100 nm)とTiN電極(膜厚150nm)を成膜・パターニングした。そして、140keV、5×15cm-2という条件でヒ素イオンをソース/ドレインにイオン注入し、650℃×6時間活性化アニール処理した。

 図2はゲート電圧(VG)-ドレイン電流特性(ID)で、(b)のドットマスク転写により作製したTFT特性はフルエンス依存性が小さくなっていることがわかる。これは、マスクなし条件ではフルエンスにより結晶粒の位置や大きさが変化するのに対し、ドットマスク転写条件においては結晶核が遮蔽領域に形成され、かつ周囲の照射領域では溶融しているために横方向成長が促されることにより正方形の結晶粒がチャネル内に均一に形成されたためと考えられる。さらに、同一条件で作製したN=8個のモビリティばらつきを評価したところ、σが17%(マスクなし条件)から3%(ドットマスク転写条件)に低減した。この結果、マスク転写を用いた結晶成長制御法によってTFT特性のばらつきが大幅に抑制できることがわかった。

Geトランジスタが高性能フレキシブルTFTとして急浮上


図4 電気特性のGe膜厚依存性2) (a)平均グレインサイズ
(b)ホール濃度とホール移動度


図3 (a)ラマンスペクトル、(b)Ge基板からのピークシフト、
(c)Geの半値幅2)

 ここにきて高移動度TFTとして注目されているGeトランジスタでは、筑波大学と日本学術振興会の研究グループがプラスチック基板製デバイスでもガラス基板製デバイス並みのキャリアモビリティが得られたことを報告した。

 今回の初期実験では、GeO2層を膜厚50nmでスパッタリング成膜した石英ガラスおよびプラスチック(カプトン)基板上に、150℃で基板加熱しながら非晶質Ge膜(100〜500nm)を分子線堆積。そして、N2雰囲気で熱処理(375℃×150h)して固相成長を誘起した。

 図3-(a)、(b)より、結晶Geに起因するラマンピークは基板種類によって異なる方向にシフトしており、ガラス基板上では伸長歪み、プラスチック基板上では圧縮歪みがそれぞれ印加されていることがわかる。これらは、基板-Ge膜間の熱膨張係数差から見積もられる歪み量と一致する。また、図3-(c)より基板種類変調による半値幅の差はみられず、同等の結晶性を有することが示唆される。図4は基板効果を粒径、正孔密度、正孔移動度の観点から調査し、膜厚の関数として整理したもので、すべての膜厚においてプラスチック基板上でも石英ガラス基板上と同等の粒径・電気的特性を示すことがわかる。


図5 ホール移動度とホール濃度の比較2)

 以上の結果を元に、高耐熱性ポリイミドフィルム「ゼノマックス」を基板に使用し、上記と同工程で結晶化したGe薄膜(400nm)にポストアニール(500℃×5h)を施した。その結果、欠陥誘起アクセプタの低減により不純物散乱が抑制され、図5のように正孔移動度が500cm2/Vsから670cm2/Vsと劇的に向上した。これはガラス基板上Geを凌駕する値であり、絶縁体基板上に低温合成したあらゆる薄膜の中で最高に当たる。このため、きわめて高性能なフレキシブルデバイスの実現が期待できる。

電子注入層に新たな添加剤を用いて逆構造有機ELの特性をさらに改善

 東京大学、NHK放送技術研究所、日本触媒、大阪大学の研究グループは、コンベンショナルなアルカリ金属に代わって独自開発した電子注入材料を用いた逆構造有機ELにおいて電子注入材料に新たな添加剤をドープすることによってさらに高効率化・長寿命化したことを報告した。


図6 DBN(a)、DBU(b)、N-DMBI(c)の分子構造3)

 研究グループは以前、逆構造有機ELのカソード上に成膜する電子注入材料としてホウ素含有化合物を塗布成膜すると良好な寿命特性が得られることを報告。しかしながら、ホウ素含有化合物のみでは駆動電圧が高く、4-(1,3-dimethyl-2,3-dihydro-1-H benzoimidazol-2yl)phenyl)dimethylamine(N-DMBI)などの塗布成膜可能な添加剤を用いる必要がある。このため、ペロブスカイト型太陽電池の電子輸送層にアミジン誘導体である1,8-Diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene(DBU)が低電圧化に適した添加剤として使用されていることに着目し、複数のアミジン誘導体を添加した電子注入材料を用いてデバイス特性を評価した。


図7 J-V特性3)

項目
Max EQE (%)
LT90 (hour)
undoped
11.4
608
N-DMBI doped
14.4
438
 DBN doped 15.3  1440 
DBU doped   13.6 212 

表1 外部量子効率と寿命特性3)

 今回作製した逆構造有機ELはITO(膜厚150nm)/ZnO/有機電子注入層/Zn(BTZ)2(10nm)/Zn(BTZ)2:Ir(piq)3(6wt%, 20nm)/DBTPB(10nm)/α-NPD(40nm)/HAT-CN(10nm)/Al(100nm)という構造。電子注入層のホストとしてホウ素含有化合物、添加剤としてアミジン誘導体であるDBU、1,5-diazabicyclo[4.3.0]non-5-ene(DBN)を用いた。

 図6に使用したアミジン誘導体とN-DMBIの分子構造を示す。図7に示す電流密度-電圧特性より、アミジン誘導体を添加すると低電圧化することがわかる。また、添加剤としてDBNを用いた素子はDBUを用いた素子に比べより低電圧化した。表1のように、DBNを添加した素子ではとくに高い最大外部量子効率が得られた。これはDBNを添加した場合、カソードからの効率的な電子注入により、注入された電子がほぼすべて発光として得られるためと考えられる。

 さらに、添加剤としてN-DMBIを用いた素子と特性を比較したところ、図7のようにDBNを用いるとN-DMBIを用いた場合に比べより低電圧化した。また、表1のように外部量子効率もDBNの方が高い値を示した。さらに、素子を一定電流密度で駆動させたときの駆動寿命もDBNを添加剤として用いた素子で最も長い寿命が得られた。

メタルハライドペロブスカイト厚膜を有機ELのキャリアトランスポートレイヤーに


図8 キャリア輸送層にMAPbCl3を用いた有機ELの構造4)

 一方、九州大学と科学技術振興機構(JST)の研究グループは可視域領域において透明なメタルハライドペロブスカイトCH3NH3PbCl3(MAPbCl3)を有機ELのキャリアトランスポートレイヤーに用いることを提案した。電子側、ホール側ともキャリアトランスポートレイヤーを厚膜化することによって製造プロセス上のメリットを得ようという狙いで、メタルハライドペロブスカイトの高いキャリアモビリティによって従来の有機キャリアトランスポートレイヤーの10倍以上という膜厚ながら、実用レベルの電圧特性、外部量子効率、寿命特性が得られたという。

 周知のように、発光領域と金属電極の間で光干渉が生じてしまうため、通常の有機ELでは発光スペクトルの角度依存性が生じる。これに対し、今回の有機EL(図8)では膜厚1,000nmのペロブスカイト層を発光層と金属電極の間に用いたため光干渉効果がまったく生じず、スペクトルの角度依存性が消滅する。さらに、ペロブスカイト輸送層の膜厚最適化、光散乱フィルムの設置、面内配向分子の導入を行ったところ、総膜厚2,000nm以上で外部量子効率40%が得られた。

Agナノインク電極を酸化処理して有機トランジスタのホール注入性を改善

 有機トランジスタ関連では、長岡工業高等専門学校と新潟大学の研究グループがウェットプロセスで形成したAgナノインク電極を表面処理するとキャリア注入特性が向上することを明らかにした。


図10 試作有機トランジスタのトランスファー特性5)


図9 Agナノインク電極のパターニングプロセス5)

 今回の研究では、基板にOTS(octadecyl-tri-ethoxy-silane)処理を行ったSiO2膜付きnチャネルシリコンウェーハーを使用。図9のように、親撥液パターニング法によって成膜したAgナノインク電極に対しO3雰囲気中でUV光を照射して酸化銀電極を形成した。その後、再度OTS処理を行い、chlorobenzene(C6H5Cl)を溶媒としたDPA(9,10-diphenylanthracene)溶液をスピンコートして有機活性層を形成した。

 図10に試作デバイスの伝達特性を示す。Agナノインク電極表面を酸化していないAg/coated DPA素子ではゲート電圧(VG)の増大にともなうドレイン電流(ID)の立ち上がりがみられず、トランジスタ駆動が確認できなかった。これに対し、電極表面を600秒間酸化処理したoxidized Ag/coated DPAの素子はDPAを蒸着成膜した従来デバイスと同様、ゲート電圧0V付近で明確なドレイン電流の立ち上がりがみられ、ID=126.2μA、キャリアモビリティ0.35cm2/Vsと良好な特性が得られた。これは、有機層をウェットプロセスで成膜した場合も酸化処理によってコンタクト抵抗が低減されホール注入が促進されたためと考えられる。

あらかじめCu触媒をパターニングした後、グラフェンを選択成長

 古くして新しいナノマテリアルとされるグラフェンについては、情報通信研究機構(NICT)が新たなグラフェン膜の精密パターニングプロセスを発表した。あらかじめパターニングした触媒金属薄膜をCVDプロセスのひな型として利用する仕組みで、グラフェンを基板上の特定位置に精密成長させることができる。


図11 パターニングCu膜の顕微鏡写真(a)とラマンスペクトル(b)6)

 実験では、まず絶縁性基板もしくは熱酸化膜付きシリコン基板上にフォトレジストをフォトリソグラフィでパターニングした後、抵抗加熱蒸着法で膜厚500nmのCu薄膜を成膜し、リフトオフプロセスによりフォトレジストを剥離してCu膜をパターニングした。続いて処理温度1000℃、Ar/H2(3%)雰囲気下でアニール処理した後、CVD温度1000℃、CH4およびAr/H2(3%)バッファガス雰囲気下でグラフェンをCu触媒パターン上に選択的に成長させた。

 図11-(a)は作製したパターン化Cu膜の写真で、Cu表面はさまざまなサイズのドメインがモザイク状に敷き詰められていた。図11-(b)は(a)の各点に対応したラマンスペクトルで、スペクトルからはSiO2上にはグラフェンの成長が確認できなかった。一方、パターン化Cu膜上ではグラフェンに特徴的な2D、Gバンドのピークが観測され、その強度比はAおよびBともに1.6程度と、単層グラフェン(2程度)ではなく多層グラフェンの成長が示唆された。

参考文献
1)妹川ほか:局所レーザーアニールにより結晶成長制御した低温多結晶Si薄膜トランジスタ特性、第80回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、12-027(2019.9)
2)今城ほか:プラスチック上Ge薄膜の直接合成と高正孔移動度(670cm2/Vs)実証、第80回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、12-034(2019.9)
3)鈴木ほか:アミジン誘導体を電子注入層に添加した高効率・長寿命な逆構造有機EL素子、第80回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-148(2019.9)
4)松島ほか:メタルハライドペロブスカイト輸送層を用いた厚膜有機EL素子、第80回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-217(2019.9)
5)曽根ほか:ウェットプロセスで作製したOFETにおける銀ナノインク電極表面酸化処理の効果、第80回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-564(2019.9)
6)富成ほか:パターン加工された金属薄膜を用いたグラフェンの作製、第80回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、15-121(2019.9)


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。


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