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映像情報メディア学会技術報告-情報ディスプレイ-(7月27日)


映像情報メディア学会技術報告-情報ディスプレイ-
パナソニックがCWレーザー照射とガスドープLDDを用いた有機ELD用ボトムゲートTFTを報告

7月27日、都内で映像情報メディア学会主催による「映像情報メディア学会技術報告-情報ディスプレイ-」が開催された。ここでは、パナソニックの斉藤徹氏の講演「CWレーザアニール結晶化を用いたAMOLED駆動用ボトムゲート型TFT」をピックアップする。


図2 レーザーのスキャン速度とTFTモビリティ偏差1)


図1 レーザーのパワー密度・スキャン速度とTFTモビリティの関係1)

 タイトル通り、同社の研究グループは大型高精細有機ELディスプレイをドライブするバックプレーンとしてa-Si TFTで一般的なボトムゲート構造を選択した。これは、コンベンショナルなトップゲート構造低温Poly-Si TFTに比べマザーガラスサイズやパネルサイズの制約がほとんどなく第8世代(2250×2500o)以上の超大型マザーガラスが使用でき、さらにエキシマレーザーアニール工程やイオンドーピング工程といったハイコストプロセスがレス化できるため。いうまでもなく、a-Si TFTで大型高精細の有機ELDを駆動するのは不可能に近いため、a-Siプリカーサ膜をCW(continuous Wave)発振グリーンレーザー照射によって結晶化。また、ソースドレイン領域近傍のa-Si成膜時のガス濃度を制御することにより、イオンドーピングレスでLDD構造(Lightly Doped Drain)を実現した。

 まずa-Siの結晶化に当たっては波長532nmのYAG-SHG CWレーザーを用いた。これはCW発振で固体であることから、パルス発振でガスレーザーであるエキシマレーザーに比べ出力が安定しており、均一な結晶が得られるため。また、ラインビーム照射ではないためレーザーアニール装置にはマザーガラスのサイズ限界がなく、超大型マザーガラスを用いることができる。その反面、レーザー照射はラインビームではなく、いわゆる一筆書きのように基板全面を順次照射していく。試作した第8世代基板対応装置ではビームの短軸幅を30μm、長軸幅を4.5〜5oに設定。マックス650o/secで高速移動しながらレーザー照射する。このため、果たしてマスプロダクションに適用できるのかという疑問が残るが、レーザーヘッドを8基搭載してパラレル処理すれば8.9枚/hというスループットが得られる。


図4 TFTモビリティの均一性1)


図3 TFTアレイへのレーザー照射イメージ1)

 図1はレーザーのパワー密度・スキャン速度と試作デバイスのキャリアモビリティを調べた結果で、モビリティ1〜3cm2/V・sで固相結晶化(SPC)と考えられる領域、25〜70cm2/V・sで液相結晶化(LPC)と考えられる領域が得られた。図2はパワー密度60kW/cm2時におけるスキャン速度とモビリティ偏差の関係で、スキャン速度300o/secと500o/sec付近でばらつきの少ない領域が存在する。これらはLPCとSPCが形成できていることを意味する。つまり、これらの領域では安定な結晶がユニフォミティよく形成でき、プロセス条件によって容易に結晶性が制御できることがわかった。

 また、レーザービームの重ね照射による結晶性のばらつきを回避するため、図3のように機械的スリットを用いてビームの長軸幅を4.5〜5oで制御。ビームのエッジ急峻性を10μm以下にすることにより、ピクセル内のTFT配置領域への重ね照射をレス化。ビームエッジ部がTFT非配置領域を照射するようにした。この結果、スキャン速度650o/secという高速移動でアライメント精度±10.1μmを達成。レーザーの重ね照射がない1ショット照射を実現した。

 図4は基板面内のTFTのモビリティを測定した結果で、TFT間のばらつきが少ないことがわかる。また、レーザーヘッドの違いによる個差もほとんどなかった。これは、いうまでもなくレーザーヘッドをマルチ化してもユニフォミティが低下しないことを意味する。


図6 p型TFTとn型TFTのId-Vg特性1)


図5 ガスドーピングLDD構造デバイスとレスデバイスのId-Vg特性1)

 一方、イオンドーピングレス化ではガスドーピング法によってソース/ドレイン領域近傍のドーピングガス濃度を制御してLDD構造にした。周知のように、LDD構造の低温Poly-Si TFTではSiチャネルに接するソース/ドレイン領域をイオンドーピング濃度の低いN- LDD、その外側にイオンドーピング濃度の高いN+を設ける。これに対し、ガスドーピングLDDでは結晶Siの上部に設けるa-Siをプラズマ成膜する際、PH3ガスの濃度を2段階で制御することにより下部にN- a-Si、上部にN+ a-Siを設ける。つまり、縦方向でドーピングガス濃度が異なるLDD構造にする。図5はその効果を評価した結果で、ガスドーピングLDD構造にするとOFF電流が一桁低下。イオンドープデバイスに近い特性が得られた。

 また、この技術を用いB2H6ガスをドーピングしたp型TFTも作製。図6のようにN型、P型とも良好な特性が得られ、CMOSデバイスが実現できることが実証できた。
 
参考文献
1)斉藤ほか:CWレーザアニール結晶化を用いたAMOLED駆動用ボトムゲート型TFT、映像情報メディア学会技術報告-情報ディスプレイ-、pp.13-16(2012.7)


REMARK
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2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。