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セイコーエプソン 有機ELフロントライトで反射型LCDの視認性を向上
白色有機EL素子をアレイ化し輝度ユニフォミティをアップ


 外光反射を利用して表示する反射型LCDでは、夜間など暗所でも見えるようにフロントライトを搭載するケースが多い。しかし、コンベンショナルな白色LEDでは漏れ光による輝度ユニフォミティの低下や視野角の低下が指摘される。こうした問題に対し、セイコーエプソンは有機ELフロントライトという新しい概念を考案。試作デバイスでその輝度ユニフォミティの高さを示した。有機ELディスプレイでも有機EL面光源でもない有機ELフロントライトとは?

ディスプレイ開発本部ディスプレイ開発センター 部長■小間徳夫氏 


図1 デバイスのデザイン

Q:有機ELデバイスの新たな応用例として有機ELフロントライトを学会発表されましたが。
A:はい。コンセプトは輝度均一性の高い白色照明デバイスで、反射型LCDのフロントライトを最大のターゲットにして開発・試作しました。

Q:デバイス構造は。
A:図1のように、白色有機EL素子を150μmピッチでアレイ化し、それぞれで発光させた白色光を光源として用いる仕組みです。つまり、従来の有機EL面光源のような面光源ではなく、微細化した点光源によって面光源機能をもたせています。

Q:有機ELアレイのデザインルールによって開口率が決まるため、それにともなって輝度や効率も変化するわけですね。

A:そうです。素子サイズは約20×30μmで、全体に占める面積比率はそのサイズとピッチによって決まります。図2はデバイス全体の透過率と有機ELアレイの面積比率を示したもので、面積比率を6%にすると透過率は93%弱、8%にすると91%強になります。

Q:輝度は。
A:有機ELですので印加する電流によって変化し、マックス100cd/m2クラスまで可能です。ただ、反射型LCDのフロントライトに使う場合、その特性から10〜20cd/m2もあれば十分でしょう。


図3 断面図

図2 透過率と有機EL素子面積割合の関係

Q:つまり、面光源ほど高輝度が要求されないアプリケーションに適していると考えていいですか。
A:そうですが、面光源はフロントライトのような用途には適用困難ですので、新規性があるデバイスと考えてください。

Q:有機ELのデバイス構造は。
A:図3のように、ITOアノード/ホール注入層/ホール輸送層/白色発光層/電子輸送層/Alカソードという一般的な低分子素子です。それぞれの材料や膜厚は公表できませんが、発光層はブルーグリーンとオレンジの2層による2波長です。素子はエポキシ系樹脂で全面をカバリングした後、さらに市販のAR(Anti Reflection)フィルムを貼って反射を抑制しています。


写真1 フロントライトの違いによる輝度ムラ比較

Q:素子のパターニングはメタルマスクを用いるマスクスルー蒸着法ですか。
A:そうです。有機層とカソードはメタルマスクスルー蒸着法、ITOアノードは一般的なフォトエッチング法でパターニングします。

Q:素子サイズが20×30μmクラスというと、メタルマスクスルー蒸着法も難易度が高いのでは。
A:デザインルールからみるとそう思えるでしょうが、RGB独立発光ディスプレイのように位置精度やサイズ均一性がシビアに問われるわけではありませんので比較的容易にパターニングできます。

Q:電極の取り出し方法は。
A:そのあたりについてはノウハウが絡むので詳細は話せません。

Q:輝度以外のスペックは。
A:XY色度や発光効率は公表してません。最大のアドバンテージは輝度ユニフォミティが±5%と高いことで、事実上の面光源が実現します。写真1はデバイスを斜めに傾けて輝度均一性を比較したもので、有機ELフロントライトがいかに均一かがわかると思います。もちろん、視野角依存性もきわめて少なく、上下30°に傾けても均一な照明が実現できます。


写真2 ペーパーに用いた際の視認性


写真3 反射型LCDへ用いた際の画像表示例


図4 ポスターや写真への使用例

Q:ライフタイムは。
A:明確に測定してませんが、反射型LCDの場合、有機ELディスプレイや有機EL面光源のように光源の使用時間が少ないため、あまりに気にしてません。

Q:消費電力は。
A:試作デバイスは電流6mAで電圧が10Vと高めです。実用化する場合はモバイル用途を考え低電圧化する必要があるでしょう。

Q:厚さは。
A:試作デバイスは0.2o厚のガラス基板を使っていますので0.2o強です。このため、薄型という意味でもCCFL(冷陰極管)やLEDに比べ有利といえます。

Q:今回の試作デバイスは30×40oと小型ですが、大型化の可能性は。

A:おっしゃるようにデバイス自体は小型ですが、試作は300×400oもしくは370×470oガラス基板を用いていますので、10型以上の大型化も比較的容易です。逆説的にいえば、大型化すればするほど白色LEDなど既存の光源に比べ輝度ユニフォミティの差が大きくなりますので効果的かもしれません。

Q:この有機ELフロントライトを用いて反射型LCDも試作したんですか。

A:はい。写真2がその表示例です。

Q:このケースではAlカソードによって外光が反射してみにくくなるのでは。

A:おっしゃる通りです。このため、実用デバイスではAlカソードの上にブラックマトリクスを設ければ反射が抑制できコントラストも向上します。

Q:反射型LCDのフロントライト以外の応用例は。
A:反射型LCDと同様、暗所ではみにくい電子ペーパーのフロントライトに有望です。また、極論すれば前面に光源を設ける用途すべてに適用可能性があります。具体的には、自動車のメカ式スピードメーターや写真・ポスターのフロントライトに用いれば、暗所でも輝度が向上し視認性がアップします。そのほか、MEMS方式ディプレイにも有効です。

Q:製品化計画は。
A:まだ第一弾のプロトタイプを試作したばかりですので、製品化計画は決まってませんが、2010年頃をメドに完成度を高めていくとともに、用途開拓を行っていく考えです。

参考文献
1)Norio Koma, et al.:Novel Front-light System Using Fine-pitch Patterned OLED, SID 08 DIGEST, pp.655-658(2008.5)