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応用電子物性分科会研究例会(11月9日)


応用電子物性分科会研究例会「ここまで来た薄膜トランジスタ−フレキシブル電子デバイス応用へ向けて−」
フレキシブルディスプレイ用TFTでもIGZO-TFTが一歩リードした感が

11月9日、都内で応用電子物性分科会研究例会「ここまで来た薄膜トランジスタ−フレキシブル電子デバイス応用へ向けて−」が開かれた。タイトル通りフレキシブルデバイス用TFTをテーマにした研究会で、アモルファスIGZO酸化物TFT、有機TFT、CNT-TFTという三大フレキシブルTFTの最新技術動向が紹介された。ここではa-IGZO-TFTとCNT-TFTに関する3件の講演をピックアップする。

 ここにきてシャープ、Samsung Electronicsが相次いで量産化を表明するなど実用化が目前に迫ってきたa-IGZO(In-Ga-Zn-O)-TFTに関しては、発明者である東京工業大学 細野秀雄教授の研究グループから神谷利夫教授がa-IGZO-TFTの技術動向を講演した。


図1 ローラブルガラス上に作製したa-IGZO-TFTの伝達特性(左)と曲率半径(右)1)

 まず、ディスプレイ用TFTとしてとくにa-IGZO-TFTが存在感を発揮するのは、@有機ELディスプレイ、A超大型高速駆動TFT-LCD、Bフレキシブルディスプレイ、の三つと指摘。@とAはコンベンショナルなa-Si TFTではキャリアモビリティの限界からこれらをドライブするのが難しいためである。とくに、Aを時分割グラスフリー方式で3D化すると480Hz駆動クラスの高速駆動が求められ、モビリティは5cm2/V・sクラスが必要になる。いうまでもなく、a-Si TFTのモビリティは0.5〜1cm2/V・sであり、通常の2D表示でも70型60Hz駆動が限界となる。また、@では現在低温Poly-Si TFTが用いられているが、均一なPoly-Si膜を得るのは難しく、結果的にVthがばらついてしまう。このため、輝度ムラが大きくなり、パネルを大型化するのが難しい。これに対し、a-IGZO-TFTはモビリティが10cm2/V・s前後と高く、さらにアモルファスのため大型基板でもユニフォミティが高いという利点があり、これら@とAの最新FPDのTFTにベストといえる。

 今回のメインテーマであるBについても室温成膜が可能で、フレキシブル化も比較的容易といったポテンシャルを備える。そこで、研究グループは日本電気硝子のローラブル極薄ガラス上にa-IGZO-TFTを作製し、曲げテストを行ってその特性変化を調べた。その結果が図1で、Vthシフトはみられたものの、曲率半径40oまではモビリティ、Sファクターともほとんど変化しなかった。つまり、フレキシブル化しても実用的な特性が得られることが確認できた。

 フレキシブルデバイス用TFTでもうひとつクリアすべき点が低温プロセス化である。前記のように、元来、a-IGZO-TFTは室温成膜も可能だが、成膜後に300〜350℃でアニールしないとモビリティをはじめとする特性は向上しない。そこで、アニール温度依存性を調べたところ、アニール温度が200℃以下だとVthがマイナス方向にシフトし、150℃だとこうした傾向がさらに加速することがわかった。そこで、O2の代わりにオゾンO3を用いたストロング酸素雰囲気でアニールしたところ、低温でもVthシフトの少ない良好な特性が得られた。

IGZO-TFTでポリマーゲート絶縁膜を用いる場合はトップゲート型が有利


図2 試作IGZO-TFTの構造と伝達特性2)

図3 フレキシブルIGZO-TFTの構造と特性2)

 一方、NHK放送技術研究所の佐藤弘人氏はフレキシブルa-IGZO-TFTを実現するため、ゲート絶縁膜にコンベンショナルな無機SiO2に代わってポリマーを用いたIGZO-TFT駆動有機ELDについて報告した。

 いうまでもなく、フレキシブルデバイスでは通常サブストレートにプラスチックフィルムを用いることからプロセス温度を低下させるためで、130℃で硬化する日本ゼオンのオレフィン系ポリマーを膜厚300nmでスピンコートしてゲート絶縁膜を形成した。半導体層はIn-Ga-Zn-O(1:1:1:4)ターゲットを用いてRFマグネトロンスパッタリング法によって室温成膜した。膜厚は30nmである。

 デバイス構造による特性比較をするため、図2のようにトップゲート型とボトムゲート型を作製したところ、前者は良好なスイッチング特性を示した一方、後者はOFF電流が高くスイッチング特性が得られなかった。これは、IGZO活性層のキャリア密度が2.2×1018cm3とボトムゲート型に比べ2ケタ以上高いためと考えられる。つまり、キャリア密度が高すぎると、ゲートに負バイアスを印加してもIGZO膜中に空乏層が広がらずOFFしないと思われる。実際にSIMS(Secondary ion mass spectrometry)測定を行ったところ、ボトムゲートサンプルはポリマーゲート絶縁膜内にGa、In、Znといったメタル成分が拡散していることがわかった。つまり、IGZO膜のスパッタ成膜時にこれらメタル成分がポリマーゲート絶縁膜に侵入する。この結果、IGZO膜中に過剰電子が誘起されてOFF電流が高くなると考えられる。以上からオレフィン系に限らず、ポリマーゲート絶縁膜を用いる場合はIGZO半導体層を先に成膜するトップゲート型が有利と判断。PENフィルム上にトップゲート型IGZO-TFTを作製したところ、図3のようにヒステリシスのない良好な特性が得られた。この際、キャリアモビリティは4.9cm2/V・sだった。

 そこで、このIGZO-TFT上にボトムエミッション型高分子燐光有機ELD(5型QVGA)を作製、フレキシブル化しても表示が維持できることを確認した。

IJ法を多用したCNT-TFTにもフレキシブルTFTのポテンシャルが 
 
  CNT(カーボンナノチューブ)-TFTでは、早稲田大学の竹延大志氏がインクジェットプリンティング(IJ)法を多用したデバイス作製技術を報告した。

 まず、ここでいうCNT-TFTとはソース/ドレイン間に1本のシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)を配置する単一デバイスではなく、ソース/ドレイン間に無数のSWCNTをランダムに配置したネットワークデバイスであることを断っておく。このため、CNT活性層には半導体性CNTと金属性CNTが混在する。したがって、SWCNTの密度が高いと複数の金属性CNTが接触し配線的な性質になってしまう。そこで、SWCNTを低密度にして金属性CNT同志を完全に接触させずに半導体膜にするのが一般的である。IJ法は液摘を滴下するというメカニズムから、この低密度配置に適しているといえる。つまり、滴下回数を少なくすればいいわけである。研究グループは当初、分離レスのSWCNTを用いていたが、キャリアモビリティは2cm2/V・s程度と低く、さらにON/OFF電流レシオも低いなどCNT-TFT本来のポテンシャルにはほど遠かった。

 そこで、まずチャネルの微細化によってモビリティを向上させることにした。といっても、IJ法では液滴サイズの制約から描画幅を数十μmにするのは難しい。そこで、SAM(Self Assembled Monolayers)を用いた表面改質パターニング法を併用することにした。具体的には、SAM材料を膜厚数nmで塗布した後、フォトマスクを用いてUV露光する。この結果、露光された部分は接触角が低くなり親水化される一方、露光光が照射されなかった部分は本来の撥水性を維持する。したがって、SWCNT懸濁液をIJ滴下すると親水部だけに付着する仕組み。この表面改質パターニング法を用いることにより、線幅解像度は従来の210μmから90μmと劇的に向上。最近では10〜20μmにまで微細化できることが確認できた。

 次にトライしたのが駆動電圧とヒステリシスの低減である。これには、ゲート絶縁膜材料に静電容量が非常に大きいイオン液体を用いることにした。@金属性SWCNTをIJ印刷してソース/ドレインを形成、A分離技術によって純度を95%程度に高めた半導体性SWCNTをIJ印刷し半導体層を形成、B金属性SWCNTをIJ印刷してゲートを形成、Cイオン液体をチャネル上にIJ滴下、といったフローでトップゲート型デバイスを作製。この場合、ゲート絶縁膜の実効的な膜厚は1nm相当になるため、駆動電圧は1Vと劇的に低下。さらに、イオン液体の効果からかヒステリシスもほぼなくなった。


写真1 フレキシブルCNT-TFT3)

 しかし、いうまでもなくイオン液体はリキッドなのでデバイスを動かすと流動してしまう。そこで、イオン液体にポリスチレンやPMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)といったポリマーを添加しゲル化することによってチャネル上に固定化した。

 写真1はポリイミドフィルム上に作製したCNT-TFTで、曲率半径10mmで曲げてもトランジスタ特性はほとんど変化せず、フレキシブルデバイスに適用できることが確認できた。

参考文献
1)神谷:フレキシブル応用に向けた酸化物TFT材料:現状と課題、応用電子物性分科会研究例会「ここまで来た薄膜トランジスタ−フレキシブル電子デバイス応用へ向けて−」資料、pp.121-126(2011.11)
2)佐藤:酸化物半導体TFTを用いたフレキシブルディスプレイ、応用電子物性分科会研究例会「ここまで来た薄膜トランジスタ−フレキシブル電子デバイス応用へ向けて−」資料、pp.133-136(2011.11)
3)竹延:カーボンナノチューブトランジスタの新展開、応用電子物性分科会研究例会「ここまで来た薄膜トランジスタ−フレキシブル電子デバイス応用へ向けて−」資料、pp.132(2011.11)


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。