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イノベーション・ジャパン2021〜大学見本市Online (2021年8月23日〜9月17日)


イノベーション・ジャパン2021〜大学見本市Online
酸化物半導体向けのプロセスでWhat's Newが相次ぐ

8月23日、オンライン開催による「イノベーション・ジャパン2021〜大学見本市Online」がスタートした。特設ホームページで出展者のデモンストレーションが9月17日まで公開される。オンライン開催という形式からあくまでも発表内容をコピーしたに過ぎずオリジナルレポートではないが、エレクトロニクス製造プロセス関連のトピックスをレポートする。


常温で透明酸化物導電膜を形成

 工学院大学の永井裕己准教授は、「深紫外透明導電薄膜の常温形成」と題して独自開発した分子プレカーサー法について発表した。分子プレカーサー法は、汎用有機多座配位子を結合させた錯体とアルキルアミンを組み合わせたプレカーサ溶液を基板上に塗布・乾燥し熱処理することにより、均一な透明金属酸化物薄膜などを形成する方法。汎用有機多座配位子には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)やニトリロ三酢酸(NTA)など陰イオンになりやすく入手しやすいキレート剤を使用する。


写真2 低抵抗Cu薄膜(工学院大学)

写真1 深紫外透明導電薄膜サンプル(工学院大学)
 具体的な研究成果としては、カーボンナノチューブを分散させたケイ素錯体含有プレカーサ溶液を基板上に塗布し、紫外光照射だけで深紫外領域も透過する導電性を持つ複合膜を常温で形成。塗布膜は基板に対する密着性が良好で、10-3Ω・cmという比抵抗が得られる。また、耐薬品性や500℃以上という耐熱性も合わせ持つ。フッ素ドープ酸化スズ(FTO)やスズドープ酸化インジウム(ITO)の代替はもちろんのこと、深紫外まで透過するため、太陽電池の電極や深紫外LEDなどへの適用が期待できる。

 また、高いホール移動度を持ち、かつピュアなp型Cu2O薄膜を作製することに成功。この膜を用いてp-n接合型太陽電池を試作した。さらに、銅錯体溶液を塗布しガラス基板に密着した低抵抗なCu薄膜を形成。この膜は反射率などを膜厚により制御することができるという。


水に可溶で融点の高いa-CaOを犠牲層にして酸化膜をリフトオフパターニング


写真3 WLOプロセスによるパターニングサンプル(金沢大学)
図1 WLOプロセスの基本フロー(金沢大学)
 金沢大学の川江健准教授は、「エッチング装置・薬液不要の酸化物薄膜の微細加工技術」と題して発表。エッチングレスでファインパターニング可能な水リフトオフ(WLO)プロセスを提案した。

 図1はその基本プロセスで、水に可溶で融点が高いアモルファスCaO(a-CaO)を犠牲層として用い、最後にフォトレジスト膜を剥離する際に一般的なアルカリではなくピュアウォーターを用いる。つまり、一般的なリフトオフプロセスでは対応が困難な酸化膜の高温結晶成長に対応できる。写真3は7μm四方のファインドットパターンで、酸化物薄膜の結晶性、表面形状、電気特性を劣化させずに、任意構造の形成が可能である。

SiO2バッファとZnO酸化物半導体を積層化してフレキシブル化に対応

 大阪工業大学の前元利彦教授は、硬くて脆いため一般的にフレキシブル化が困難な酸化物半導体をフレキシブルデバイスに適用可能にした研究成果を報告した。


写真4 COP基板厚50μmのときの表面観察結果(大阪工業大学)
図2 試作した酸化物TFTの断面構造(大阪工業大学)
 試作したのは図2の酸化物TFTで、ワイドギャップ酸化物半導体である酸化亜鉛(ZnO)系材料をシクロオレフィンポリマー(COP)基板上に形成。SiO2バッファ層を設けることにより、これら酸化物を積層化した。

 試作サンプルにかかる歪みを推定した結果、基板厚を薄くすると歪みの影響を軽減できることがわかった。具体的にはCOP基板の厚さが188μmのとき、ZnO膜、AZO膜ともに100回曲げた段階でクラックが生じ、約500回の繰り返し曲げ試験で基板が破断し、曲げ耐性がないことが判明した。これに対し、写真4のようにCOP基板厚50μmでは1万回曲げてもクラックが生じず、繰り返し曲げ耐久性があることがわかった。これは、基板を薄くするとSiO2層とZnO膜およびAZO膜にかかる歪みが軽減され、耐久性が向上したためと考えられる。

 実際、凸凹方向ともに曲率半径5mmで1万回までの耐久性を持つ酸化物薄膜デバイスの作製に成功。ナノインデンテーションによる硬度と弾性率の関係から、ZnOおよびAZOはCOPやSiO2と比べると硬く弾性率の高い材料であり、ナノシートのように伸縮自在な材料と考えられる。

3次元曲面も微細加工

 熊本大学の中西義孝教授は、3D構造物の作製方法として3次元材料曲面上にマスキング材料を直接塗布する技術と、マスキング部と材料曝露部を同時に機械的に除去する技術を組み合わせた表面微細加工方法"3-dSupremer(3-dimensional Surface Processing through Elimination by Mechanical Removing)"を提案した。もち肌、サメ肌、蓮の葉などBio-inspired surfaceにみられる表面構造をさまざまな部品・製品表面に加工するもので、親水性・疎水性の制御や表面抵抗の制御にも活用可能だという。


写真5 ウェットブラストによる表面加工例(熊本大学)
 具体的には、耐摩耗物質を基材表面にプットしてマスキングした後、ウェットブラストによって加工表面を滑らかに加工する。もちろん、ガラスなどの透明基材はその透明性が損なわれることはない。加工対象はガラス、セラミックス、アクリルなどのポリマー系樹脂、Co-Cr-Moなどの合金など幅広いマテリアルに適用でき、さらに凹凸形状があるサブストレートにも対応できる。

 その応用例として、ガラス素材に3-dSupremerを活用して"Allガラス製マイクロデバイス"を設計・作製した。この結果、@デバイス内のチャンバや流路の寸法がμmレベルで調整できるため、毛細管現象を活用して動力が不要な検体(唾液、体液、血液など)の導入が可能、Aチャンバや流路が小さくできるため、検査試薬や細胞と検体の密な触れ合い(混合)ができる。つまり、少量の検体で精度の良い結果が得られる、B3-dSupremerによる加工ではガラスの透明度が維持できるため、倒立顕微鏡によるマイクロチャンバや流路内の観察が容易、CAllガラス製デバイスであるため、滅菌・殺菌のハンドリングに優れるほか、廃棄時に熱溶解処理することでバイオハザード管理やマテリアルリサイクルも容易、D寸法精度の調整も容易で、多品種生産にも適する、といった特徴が生まれる。


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

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